○○アタリ道場○○ 13 - 15
(13)
兄貴は頭に出来た大きなタンコブを擦りながら、黙々と食事をする。
「あれ緒方さん、スーツの右袖のボタンが取れかかってますよ」
おかっぱは、キュウリのぬか漬けを口に入れ、ボリボリと音をたてながら
言う。
「あっ、本当だ。困ったな」
「ボク針仕事、結構 得意なんですよ。スーツ脱いでください、すぐ縫い
ますから」
「いや、いい。後で自分で繕うつもりだ」
「遠慮なんかしないでください」
「そ、そうか。ならば お願いしようか」
そこまで言うなら頼もうかと兄貴は おかっぱにスーツの上着を手渡す。
おかっぱは早速 針に糸を通してチクチクと器用に縫い始めた。
兄貴は その姿を目にした時、フッとある映像が一瞬脳裏によぎった。
兄貴の脳裏をよぎった その映像。
それは、おかっぱの周りは真っ暗な闇夜が広がり、雪が しんしんと
降っている。
針仕事をするおかっぱの頭上からスポットライトが照らされ、吹雪の中に
お袋おかっぱの姿が浮かび上がる。(ナゼか割烹着は、ツギハギだらけ)
「ふう〜」と、おかっぱは息を吐いて両肩をトントンと叩き、
ゴホゴホゲホホホと激しく咳き込む。
「さて、もう一仕事しようかなあ・・・・・」と、おかっぱは しみじみ呟く。
(燈黷ウんが〜夜なべ〜をして、
てぶく〜ろ編んでくれたあぁぁあああ〜♪)←バックミュージック
昔々の古き良き時代・お袋さんの姿が そこにあり、兄貴の体は感動に
ブルブルと小刻みに震えた。そして目に熱いは、モノが一気に込み上げ、
一筋の涙が兄貴の頬を伝った。
(14)
──母さ〜ああぁ〜あぁんん、ゴメンよぉおっ!
オレ、忙しくて なかなか故郷の漁村に帰れないでいて。
でっ、でも、オレは母さんのことだって、故郷の海だって 一日とて
忘れたことはないよっ。
父さんが酔っ払って、海に落ちたらしいという知らせを聞いた村のみんな
が総出で捜索してくれたことあったね。
だが実は父さん、隣の山田さん家の鶏小屋の中で寝ていたんだよね。
あの時、母さんは怒り狂ってバックドロップを父さんに数発ぶち込んで
いたね。
あああ、昨日のように鮮やかに思い出せるよ。
・・・って、違うだろおおぅぉおっ!!!
兄貴は、お袋おかっぱの醸し出すムードに危うく飲まれそうになりかけた
スレスレで、正気に戻った。
──あっ、危ないところだったぁあ。
お袋おかっぱ・・・、侮り難しっ!!
「緒方さん、なに独りでブツブツ言ってるんですか?
ボタンつけ終わりましたよ」
おかっぱは、綺麗に折り畳んだスーツの上着を兄貴に渡す。
「すっ、すまんな。ありがとうアキラくん」
「いいえ、どういたしまして。緒方さん、もう食事終わったようですので
片付けますね」
おかっぱは、そう言いながら お盆に食器を乗せて立ち上がった。
が、その途端、客用の高価な茶碗を床に落としてしまい、割ってしまった。
(15)
「あっ!?」
無残に粉々になった骨董茶碗を、おかっぱは渋い表情で見る。
兄貴も割れた茶碗を しげしげ覗く。確か、40〜50万はする高価な
骨董食器という事は、なんとなく知っている。それだけに、にわかに
サーと兄貴の顔色は真っ青になる。
おかっぱは しばらく目が点になっていたが、いきなりパアーと明るい
笑顔になる。
「はははっ、まあ割っちゃったものは仕方ないや。
他にも沢山 食器あるし」
と、悪げもなくサラッと言う。
「ちょ、ちょっと待てアキラくんっ!
今、割った茶碗は かなり高価なハズだぞ。そんな態度でいいのかい!?」
「えっ、コレそんなに高い茶碗だったんですか?」
「いくらだと思っていたのか?」
「うーんと、千円ぐらいかな」
それを聞いた途端、兄貴の心にピシッという亀裂が入った。
──お坊ちゃまと言えども、度が過ぎやしないか?
先生は子供を甘やかしすぎだっ!!
兄貴は、おかっぱに対して段々と腹が立ってきた。
「ちょい待てい、そこの おかっぱ―――!!!!!
オマエは人生を舐めているだろぉおっ、そこへ座れやっ!
その狂った金銭感覚を徹底的に直してやる!!」
兄貴の強気な発言に、おかっぱの目は またもやキラキラリーンと光った。
いつのまにか おかっぱの両手にはハリセンが握られている。
そして、ハリセン二刀流「ミルキーはママの味(←意味不明)」を兄貴の脳天に
素早くスパパパパァアア―――ンン!!!と、二発食らわす。
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