蛍 13 - 15
(13)
まるで夏の海に漂っているような、心地良さ。
僕はふいごのように荒い呼吸を繰り返し、余韻に浸る。
いつのまにか、進藤の指は僕の唇から離れていた。
はあはあと繰り返す荒い呼吸の中に、水音が混じっていることに気づいたのは、しばらく経ってからだ。
耳に届く、濡れた音に、なんだろうと心の中で首を傾げたとき、最初の圧迫感に僕は四肢を強張らせた。
くちゅ……くちゅ…………ちゅ…………
進藤の指が、僕を穿っている。
僕は肘をつき上半身を起こした。しかし、進藤の手元を覗くことはできなかった。
彼がいまだに僕を咥えていたからだ。
萎えていたものが、進藤の舌の上で、また形を変えていく。
「しんど………」
答える代わりに、進藤は強く吸い上げ、差し込んだ指をぐるりと回した。
「あうっ………」
快感と圧迫感が同時に襲う。
僕はシーツを握り締め、びくびくと跳ねる体に我を忘れた。
進藤の手が動く度に、静かな室内にくちゅっという音が響く。
「感じてるよね?」
僕の性器から口を外して、進藤が尋ねる。答えるまでもない。
たったいま吐き出したはずなのに、勃ちあがっているんだ。誤魔化しようがない。
「ここからは、俺の番……」
進藤はそう云いながら、僕の後ろに差し込む指を増やした。
二本目も難なく飲みこまれていく。
圧迫感は増したけど、嫌悪感はなかった。
濡れた指が、ゆっくりと推しこまれ、ゆっくりと引き戻される。
「ん……、ふっ…………」
根元まで飲みこまされた指が、またぐるりと動いた。僕の腰は、思わず上へ逃げを打った。
が、進藤は腰を押さえつけて僕を逃がそうとしない。
「身体の力を抜いて……」
そう囁く進藤の息が乱れている。
彼がこの行為に気を昂ぶらせているのが感じられて、僕はなんだか嬉しかった。
(14)
「塔矢のなか、熱いね……」
進藤の熱に浮かされたような声が、そんなことを囁く。
僕は進藤の愛撫に身も心も溶けていく。
ゆっくりとした抜き差しがつづくなか、僕の正直な性器は、快感に打ち震え、熱い雫を滴らせていた。
進藤が指を増やした。
「ひっ!」
一瞬のうちに、快感は痛みに取って代わる。
たった一本指が増えただけだ。それなのに、甘い陶酔が込み上げる吐き気に代わってしまった。
「進藤!」
情けないことに、僕はいまにも泣き出しそうな声で、彼の名前を呼んでいた。
進藤が上目遣いに僕を見上げる。
金髪の狭間から、あの僕を魅了してやまない瞳が覗く。
「ごめん」
彼は溜息混じりに呟いた。
「ここでやめれば、おまえを苦しめることもないのにな……」
進藤は、すまなそうにそう言うと、萎えかけていた僕の性器をまた口に含んだ。
舌を強引に絡め、きつく吸われる。
僕の感覚がバラバラになる。
温かい粘膜に包まれる心地良さと、肛門に感じる違和感。
さっき確かに感じた痛みは、もう見当たらない。
だが、快と不快の境界線の上で、僕の五感は頼りなく揺れていた。
そんな自分が不甲斐なく思えて、じりじりと胸を焦がしていたとき、それは訪れた。
進藤の指が、肉壁の一点を擦った。
「ふあぁっ……!!」
揺れていた五感が、快の領域に転がり落ちた。
進藤の口内で、僕はたちまち力を取り戻す。
(15)
「うあっ…あぁっ……!!」
僕は、続けざまに叫んでいた。両手で、口を抑えても、進藤が同じ処を擦るたびに、声を堪えることができない。
「ここなんだ」
進藤はそうひとり語ちると、さらにそこを責めたてる。
限界は目の前だった。
「もう、俺のほうが…ヤバイよ……」
進藤は指を抜き、僕の体に乗り上げてくると、耳元でそういった。
「ごめんな」
続けてそう言うと、僕の目尻に唇を落とす。舌で拭われて、初めて自分が涙を零していることに気がついた。
「挿れるよ」
その言葉と一緒に、進藤は僕の膝裏に腕を入れ、胸に付くほど押しつけた。
一瞬、息が止まった。
「塔矢、好きだ……」
その一言を合図に、進藤の固く張り詰めたものが、散々指でいじられた場所にあてがわれた。
目を瞑りたくなかった。
進藤は、僕の上で、固く瞼を閉じていた。
そして、歯を食い縛り、一気に僕の中に入ってきた。
「くっ…………!!!」
身を裂くような痛みより、焼き尽くす灼熱に、僕は我を忘れた。
あげたはずの悲鳴は、声となって僕の耳に届く事はなかった。
進藤は、ノックをするように小刻みに腰を打ちつけながら、僕の最奥へと分け入ってくる。
ぽたりと、僕の胸に進藤の汗が落ちた。
僕は、汗でぬれたうでを、進藤の首に巻きつけた。
「ふっ、ふっ、ふっ……」と、進藤が短く息を吐く。
彼の肩の向こうで僕のつま先が、頼りなく揺れていた。
「きつっ」と進藤がうめく。僕は瞳を見開いて、その表情の一つ一つを無心に追う。
進藤の早鐘のような鼓動を、僕は僕の胸で聞いた。
濡れた肌と肌が、ぴたりと合わさっていた。
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