祭りのあと 13 - 15


(13)
やっとヒカルの体を開放したアキラは、何事もなかったかのように、髪や服装を整えた。傍らには力尽きて床に座り込むヒカルがいた。
アキラはヒカルを立たせると、浴衣を着せにとりかかった。驚くほどシワだらけになった浴衣を整えながら着せる。
ふと、ヒカルの内ももにツーっと何かが流れ落ちるのが見えて、アキラは手を止めた。
しばらくそれを眺めてから、トイレットペーパーで丁寧にそれを拭取ると、浴衣を着せた。
「・・・なんで」
ヒカルはアキラをじっと睨みつける。
「なんであんだけ酷いことして、優しくすんだよ! だったら最初からすんなよ。・・・わかんねーよ。オレ、おまえのことわかんねーよ!!」
ヒカルはわけがわからなくて泣き出してしまった。
アキラは黙ってそれを見つめる。
「おまえ、オレのこと好きなんだろ? だったら何で嫌がることすんだよ」
「それはこっちのセリフだ。なんでボクの想いを知りながら、キミはボクを拒むんだ?どうしてボクを不安にさせるんだ?」
アキラは車内で引っ掻かれた腕の傷を見せてヒカルに逆に問うた。
「そんなの嫌だったからに決まってんだろ! オレはおまえの奴隷じゃないんだ。好きだったら何しても許されると思うなよ」
ヒカルはいつまでも変わらないこの関係を断ち切りたくて、外に出ようと、アキラを押しのけた。しかしその手をアキラが阻む。
「はなせよ。オレ、もう帰る」
「だめだ。帰さない」
そう言うとアキラは再びヒカルの体を求めてきた。
ヒカルは耐え切れず、アキラを力いっぱい押しのけると、外へ飛び出した。


(14)
夜の街にヒカルの下駄の音が鳴り響く。
ヒカルは駅の広場にある噴水のところまで逃げると、その場に座り込んだ。
無理に走ったせいか、体のあちこちがきしむように痛い。
アキラが追ってこないのを確認すると、ヒカルは肩の力がすっと抜けるのを感じた。
それと同時に涙腺がゆるんだ。ヒカルはうつむいて涙を必死にこらえた。
「どうかしたのか」
酔っ払った背広姿の若い男たちが声をかけてきた。
ヒカルは、何でもないと首を振った。
「気分でも悪いのか」
「ううん、何でもないってば」
ヒカルはほっといてくれとでも言うように男たちを見上げた。
しかし男たちの目には、先ほどのアキラ同様の怪しい光が帯びていた。
危険を察知したヒカルはその場から逃げようとした。
「どうした? 別に逃げなくてもいいだろう」
男たちはなれなれしくヒカルの肩や腰をなでまわす。
ヒカルは気持ち悪さと怖さから、無意識の内にアキラの名前を呼んでいた。
「イテテ、何すんだ」
ヒカルの体を野蛮に這い回っていた手を、いつのまにか現れたアキラがはねのけた。
「気安くこの子に触らないでください」
アキラはそう言って男たちを一瞥すると、ヒカルを自分の後ろへかばった。
「おおっ君もかわいいねぇ。なあなあ、ご馳走するから、これから食事にでも行かないか? それともカラオケがいいかな〜」
男たちはデレデレしながら、アキラの顔をよく見ようと顎をクイッと持ち上げた。
アキラは男らに唾を吐きつけ足を思い切り踏みつけると、ヒカルの手を引いて駅へと向かった。


(15)
「心配して来てみれば、予想通りの展開だったな」
アキラはそう言ってどんどん先に進む。怒っているようだが、さっきと違ってヒカルの手を強く握って離さなかった。
ヒカルはアキラの後ろ姿を見つめる。手を引くアキラの背中がいつもより大きく見えた。
どんなに酷いことをされても、アキラが本当は自分に甘いことも、優しいことも知っていたヒカルは、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
「塔矢、アリガト」
ヒカルは謝るように感謝した。やっぱりアキラを嫌いになることなどできないと感じたからだ。
その言葉にアキラは立ち止まって振り返ると、ヒカルを睨んだ。
「その顔、ボク以外の前でしたら許さないからな」
アキラはそう言うと、ヒカルに軽くキスをする。そして何事もなかったかのように、また歩き出した。
まだにぎやかな駅前広場でキスをされたことに、ヒカルは恥ずかしくて浴衣の袖で顔を隠した。
アキラにとってそれは、ヒカルが自分のものだと周囲にアピールする行為だった。
いつもなら怒るのだが、それに気づいたヒカルはなんだか嬉しくてたまらなかった。
あんなに暴言を吐いたのに、アキラはためらうことなく自分を助けてくれた。それどころか、未だに自分のことを好いて、嫉妬している。
嫉妬も案外悪くないもんなんだなと、ヒカルは嬉しくなって、アキラに寄り添うように歩いた。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!