平安幻想異聞録-異聞- 13 - 16
(13)
ヒカルと座間のまぐわいを、すぐ近くで見せつけられていた菅原顕忠の陽物は、
すでに熱く勃ち上がっていた。座間のものに比べればいくぶん細くて貧相なそれは、
それでも先の部分が雁高に貼りだしており、ヒカルに声をあげさせるには十分だった。
血と座間の放ったものとでぬめる狭門に、前戯もなく自分のものを
すべりこませた菅原は、遠慮もなくヒカルの体を攻め立てる。
それでも始めこそ、歯を食いしばり耐えようとしていたヒカルだったが、
途中からは体の力を抜き、されるがままになっていた。
「あぁ…ぅんっ……ぁっ……ぁ…」
「お気に入りの検非違使が、こんな淫乱な体と知ったら、
佐為の君はどんな顔をされるかのう」
菅原のそんな声が耳障りでヒカルは頭をふる。
ただ今は、早く終わってくれることを願うばかりだ。
無理を強いられ続けた体は、下半身の攻められ続ける秘門を中心に、
ただれるような痛みと熱をうったえていた。
もう中途半端な快楽で押さえがきくような痛みではなかった。
(14)
どうせなら痛みがわからなくなるくらい滅茶苦茶にしてくれればいいのに。
朦朧とした頭で、そんバカなことを考えながら、ヒカルはただ
菅原が終わるのを待った。
菅原の腰を打ちつける動きが速くなる。
「は……あ……あ…っ…やぁっ!」」
内壁を強く摺り上げられる感触に、ヒカルの背がわずかに反り返る。
次の瞬間には、自分の中を行き来していた菅原のものがぶるりと震え、
熱いものを奥に解き放った。
内壁をじんわりと濡れた感触が犯していく。
自分の中から菅原のモノがゆっくりと抜き出され、起ち上がった菅原が、
取り澄ました動作で着衣を整えるのが、目を閉じたままのヒカルにも
衣擦れの音でわかった。
着衣を整えた菅原は、傍で見物を決め込んでいた座間に顔を向け、
何やら頷きあうと、竹やぶの中に控えていた夜盗風の男達に声をかけた。
「そこの者共、恐れ多くも座間様が、この珍しい肴をおまえ達にも
お裾分けくださるそうだ。有り難くいただくがよいぞ」
番外
(15)
ヒカルは夜道を歩いていた。
引き裂かれ、土に汚れた狩衣を羽織って。
夜が明けて、誰かに見とがめられないうちに、休める場所にたどり着きたかった。
体中が痛い。
下半身がまるで自分のものでないように熱くて重い。
それでも必死に歩みを進めたのはヒカルの最後の意地のようなものだった。
* *
――殺されると思った。
男達になぶられながら、自分はこのまま死ぬに違いないと思った。
いいように扱われた秘門はすでに痛みの感覚さえ鈍くなり、
中を乱暴に擦り上げられ、思わず漏れる自分のあえぎ声を何処か遠くに
聞きながら、情けなさに胸がふさいだ。
どうせ死ぬなら、父上のように、もののふらしく、誰かを守るために
戦って死にたかった。
そう、たとえば、佐為のような人を守るために……
(佐為…)
「ああっっ……!」
瞬間、ヒカルは内壁を強く突き上げられ、
その抉るような快感と自分の嬌声に、現実に引き戻された。
無理やり頂点に突き上げられ、突き落とされる。
そんな感覚を何度も味合わされ、「やめて」という涙ながらの懇願も、
嗚咽とあえぎ声の中で言葉としての意味をなさなくなり、
途中何度も意識を手放しかけては、頬を打つ手に引き戻された。
(16)
――喉がかすれて、悲鳴さえもあげられなくなってようやく解放された。
それから、どれくらい気を失っていたのだろう……
意識を取り戻したヒカルが最初に見たのは、すでに天空を
下りはじめた下弦の月だった。ゆっくりと痛む手を動かすと、
男達に嬲られ揺すられるうちに徐々に緩んできていたのだろう、
手の戒めは楽にほどけた。足の戒めも。
じっと眺めた手足の傷に、先程まで自分の身にされていたことが蘇る。
なんで自分がこんなめに遭わなくちゃいけないんだろう。
こんな目に遭わされるぐらいだったら、いっそひとおもいに
殺してくれたほうがよかった。
見回したが、手放した自分の太刀は、座間の一派によって持ち
去られたのかどこにも見当たらなかった。
――だがそれはこの場合、幸いだったろう。もしそこに
太刀があれば、きっとヒカルはその場で自分の命を絶っていただろうから。
あたりは嘘のように静かだった。
情けなくて、悔しくて、胸の奥に込み上げてくる熱い塊をおさえるために、
ヒカルは、傷に土がすり込まれるのもかまわず、地面を抉るように握りしめた。。
* *
「う…く…」
泣いたらダメだ、泣いたらきっと自分は崩れ倒れて、そのままここから
一歩も動けなくなる。
夜明け前の人の気配のない街道を、ヒカルは必死で歩みを進める。
まるで自分の体そのものが重い荷物のようだった。
麻袋に入れた熱い泥の塊りを引きずってるみたいだ。
それが重い荷物でも泥でもないのだと分かるたったひとつの理由は、
それが「痛い」と伝えてくるからだ。
痛みをかんじるのなら、それは荷物じゃない―――自分の体だ。
そんな状態だったから、ヒカル自身も気づいていなかった。
自分が今、向かっている場所が、本来帰るべき近衛の家ではないこと、
……藤原佐為の屋敷の方向であることに。
追いつめられたヒカルが助けを求めて胸に思い描いた顔は、
母親の顔でも、自分に剣を指南してくれた祖父の顔でもなく、
やさしくて穏やかな佐為の笑顔だったのだ。
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