Tonight 13 - 18
(13)
「キミは……寂しいのか……?」
ヒカルははっと顔を上げてアキラを見る。なぜわかるんだろう。
けれどその問いには答えることができなくて、ヒカルはゆっくりと俯いて、別の言葉を口にする。
「おまえさ、何で何も聞かねぇの?」
「何を?」
「どうしていきなり来たのかとか、」
「聞いて欲しいのか?なら、どうして?」
「……わかんねぇ。」
ヒカルの返答にアキラはクスッと笑って、「そんな事だろうと思ってさ。」と言った。
「言いたければ言えばいいし、言いたくないなら何も言わなくてもいい。
キミの好きなようにすればいいさ。」
そうしてアキラは時計を見て、ああもうこんな時間か、と小さく呟き、それからヒカルに向かってこんな
事を言った。
「一人で寝るのが寂しいならボクの部屋で一緒に寝るか?」
「え……」
アキラの言い出した事に驚いて、ヒカルは顔を上げてアキラを見た。
「どうする?」
アキラは立ち上がりヒカルを見下ろして尋ねる。
「……うん。」
言われた場所に運んできた布団を敷いていたら、アキラが押入れから自分の布団を出して隣に少し
離して並べた。そうして二つ布団を敷いてしまったら、もうする事は何もなくなってしまった。仕方なく
ヒカルがのそのそと布団に潜り込んだら、アキラがすぐに「消すよ。」といって電気を消してしまった。
(14)
障子越しに外の明かりがうっすら射して、部屋は真っ暗にはならない。
なぜ来たのだと言われて答えることができなかった。
ここに着くまではあんなに、必死だったのに。絶対に言わなきゃいけないことがあると思ってたのに。
オレは一体何をしてるんだろう。
「塔矢……」
そっと呼びかけてみたけれど答えはなかった。
一体何をしに来たんだろう。何を言いたかったんだろう。
絶対に、言わなきゃいけない事があると思ってたのに、だってなんだか、走ってこの家について、塔矢
の顔を見たら、そんなのどうでもいいような気がしてしまったんだ。
ああ、もしかしたら。
会いたかっただけなのかもしれない。あの穏やかな顔をもう一度見たかっただけなのかもしれない。
「塔矢……」
もう一度呼びかけてみる。
「寝ちゃったのか……?」
それでも答えがはない。本当にもう寝ちゃったんだろうか。それなら。
どんな顔して寝てるんだろう。
ちょっとだけ。ちょっとだけ見てみたい。
部屋は真っ暗じゃないから。
塔矢の顔を今日最後の見納めに見ておきたい。
そう思って身体を起こしかけたら、突然、はっきりとした声が聞こえた。
「なんだ?進藤。」
「塔矢…!」
びっくりして声の方を見ると、さっきまで静かに仰向けに横たわっていたはずの塔矢が目を開けて
こっちを見ていた。
(15)
目を離さないまま、塔矢が動く。
同じようにオレもゆっくりと身体を起こした。
薄闇の中に塔矢がいる。
目を大きく見開いて、瞬き一つしないで、見たことも無いような表情で、じっとオレを見ている塔矢。
これは、誰なんだろう。
本当に塔矢なんだろうか。
ふと、オレは塔矢のことを、もしかしたら何も知らないのかもしれない、と言う思いが、よみがえってきた。
だってこんな塔矢は知らない。こんなのは、オレの知ってる塔矢じゃない。
でも、もしかしたら。
今、塔矢も同じように感じているのかもしれないと、そんな事を思った。
塔矢は何も言わない。
オレも何も言わない。
空気が、さっきまでとは変わってしまったような気がする。
息も潜めてじっと、互いに見合ったまま、身が震えるほどの緊張に耐えていた。
(16)
ボォー…ン…
廊下の奥から柱時計の音が響いて、次の瞬間、オレたちは互いの身体を抱きしめあっていた。
塔矢。
ああ、塔矢。
塔矢の肩。塔矢の背中。塔矢の髪。塔矢の匂い。
オレを抱く塔矢の腕。腕にこめられた力。
これが、塔矢。
気が遠くなりそうだ。
意識を保とうと塔矢を抱いた腕に力を混める。
そうすると同じように強く抱き返される。
柱時計の音は12を数えたら長い余韻を残して闇に消えてゆき、そしてまた静寂だけが戻ってくる。
いや、残されたのは、互いの胸の間で響いているオレと塔矢の心臓の音。
確かに生きてここにある証のように、強く激しく脈打っている鼓動の響き。
恐る恐る、ほんの少しだけ身体を離して、すぐ近くで塔矢の顔を見つめる。
同じように塔矢もオレを見ている。
目を閉じてゆっくりと、すぐそこにある唇を、そっと、重ね合わせる。
触れ合った瞬間にビリッと電流が走ったような気がして、はっと目を開けて唇を離した。
同じように塔矢も大きく目を見開いてオレを見ている。
さっきよりも更に近くで見る塔矢の目に、飲み込まれそうになる。
いっそ飲み込まれてしまいたいと思いながら逃げるように目を伏せ、もう一度唇を重ね合わせた。
そうして感じた塔矢の唇は柔らかかった。
(17)
もっと。もっと欲しい。
もっとたくさん。もっと深くまで。
布団に倒れこんで転がりながら、貪るように口を合わせ舌を絡めあい、互いの身体を探る。
こんなん、邪魔だ。オレの手が、塔矢の手が、オレ達を隔てる邪魔な布を乱暴に引き剥ぐ。パジャマ
のボタンが引きちぎれて飛んだような気もしたけど気にしない。
下着も全部取り払って投げ捨て、素っ裸になったオレ達は一瞬見つめ合い、それから腕を伸ばして、
もう一度互いの身体を強く抱きしめた。
直接触れる塔矢の素肌の感覚に、食い込むように強く抱きしめる腕の力に、頭がぐらぐらする。
こんなにドキドキいって、心臓が壊れちゃうんじゃないかと思った。
こんなに身体が熱くって、病気なんじゃないkと思うくらいだった。
でも、塔矢の心臓もオレと同じくらいドキドキしてて、そして塔矢の身体もやっぱり同じように熱くって、
オレも塔矢も同じなんだってわかって、それが嬉しくて、目を閉じたまま塔矢の頭を探り引き寄せて、
キスをした。
(18)
指の間をサラサラ滑る髪。熱く荒い息。汗ばんだ皮膚。
オレが塔矢を探る間に塔矢の手はぐしゃぐしゃとオレの髪をかき混ぜ、息継ぎをするために離れ
ようとしたオレの頭を強引に押さえ込み、そしてもう片方の手はオレの身体を確かめるように腕を
掴み肩甲骨をなぞり、背筋を伝って降りて、腰骨を、脚を掴む。塔矢の上に乗っかる形になった
オレは塔矢の頭を抱え込んで塔矢の口の中を貪る。
塔矢の上に馬乗りになってたオレは、でももっと全身で塔矢を感じたくて膝の力を抜いて全身の体重
を塔矢にかけるようとして、そこにあったモノに、一瞬、驚いて、それからもっとそいつを感じたくて、
塔矢の身体にびったりと張り付く。
オレの腹にあたる熱く硬く、ビクビクと動く塔矢の存在を感じてオレの頭は沸騰する。
脚を絡めるように割り込んで、同じくらい熱くいきりたったオレを擦り付けると塔矢の身体がビクンと
跳ねた。胸から腹までぴったりとくっつけながら身体全体を揺するようにすると、オレ達の間でそいつ
らは別の生き物みたいにぐいぐいと互いを押し合う。
もう、気持ちいいとかそんなのを通り越して、何が何だかわからなくなる。
自分の手でそいつを刺激するのなんかとは全然違う。
熱くぬめる塔矢のソレが、同じくらい熱いオレとぶつかり合って、擦れ合って、ぐちゃぐちゃといやら
しい音を立てている。そいつらをもっと絡ませるようにオレが塔矢の上で夢中になって動いていたら、
乱暴にソレを掴まれて、一瞬、オレの動きが止まる。え、と思う間もなく、塔矢の手がオレのと塔矢の
とを一緒にぎゅっと握りこんでいた。
塔矢の、あの、手が。
見えないところで、オレを掴んでる塔矢の手を想像しただけでオレは一気に膨れ上がり、そして、オレ
と塔矢は、多分、同時にイッた。
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