初めての体験 131 - 132
(131)
涙をぽろぽろ流したまま廊下を歩いていると、向こうから歩いてきた趙石がびっくりして立ち止まった。
恥ずかしい。泣いているところを見られてしまった。ヒカルは、手の甲で慌てて涙を拭いた。
趙石はどうしたらいいのかわからなかったらしく、困惑しながら笑いかけてきた。その
チャーミングな笑顔に、ヒカルもつられて半べそかいたまま、笑い返した。
最初は、見とれて惚けていた趙石の顔が見る見る赤くなっていく。そして、そんな自分に
気づいた途端、そのまま走り去ってしまった。
ヒカルはその後ろ姿を見送りながら、『いけるかも…』と、思った。だけど、追いかける
つもりはなかった。
「また、人数増えてたら困るもんな…」
でも、通訳に楊梅さんとか来たらどうしようと、思いながらも……楊梅さんなら、ちょっとイイかな…
と考えてしまった。自分は全然懲りてない。
「戒めのためにとっとと手帳に今日の戦果をつけておこう。」
高永夏…軽い外見の割には研究熱心。強い。さすがに、韓国若手ナンバーワンを自負する
だけのことはある。
でも、オレはオマエなんか大ッ嫌いだ!
洪秀英…技術的にはまだまだ未熟。だが、探求心は旺盛で、努力家。今後に期待大。
おまけ
(132)
おまけ
「わっ!」
廊下を曲がろうとして、趙石とぶつかってしまった。彼の顔は真っ赤だった。
「ゴメンナサイ」
アキラに一言そう謝ると、彼は走って行った。
「何を慌てていたんだろう…」
走り去る華奢な後ろ姿を見ながら、『たまにはああいう純情そうなのも良いな…』と
考えた。アキラの鞄の中には、つい先日手に入れたばかりのエネ○グラが、入っていた。
「ホントは進藤に使いたいんだけどな…泣いちゃったらイヤだし…」
趙石は純情そうなところがヒカルとかぶる。新しいオカズになるかもしれない。
邪なことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「趙石がどうかしたのかい?」
振り向くと楊梅が立っていた。
「いいえ…ちょっとぶつかっただけです。」
アキラはにっこりと笑った。
「それより、もしお時間があれば、中国の事をいろいろ教えていただけませんか?」
「ああ、いいよ。じゃあ、オレの部屋に行こうか?」
「いえ、できればボクの部屋で…」
楊梅は、快く承諾してくれた。先に立って歩く彼の後ろを、黙ってついて行く。
『…アレってどれくらい効くのかな…楽しみだ…』
知らず、笑みが零れた。
終わり
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