初めての体験 132 - 134
(132)
おまけ
「わっ!」
廊下を曲がろうとして、趙石とぶつかってしまった。彼の顔は真っ赤だった。
「ゴメンナサイ」
アキラに一言そう謝ると、彼は走って行った。
「何を慌てていたんだろう…」
走り去る華奢な後ろ姿を見ながら、『たまにはああいう純情そうなのも良いな…』と
考えた。アキラの鞄の中には、つい先日手に入れたばかりのエネ○グラが、入っていた。
「ホントは進藤に使いたいんだけどな…泣いちゃったらイヤだし…」
趙石は純情そうなところがヒカルとかぶる。新しいオカズになるかもしれない。
邪なことを考えていると、後ろから声をかけられた。
「趙石がどうかしたのかい?」
振り向くと楊梅が立っていた。
「いいえ…ちょっとぶつかっただけです。」
アキラはにっこりと笑った。
「それより、もしお時間があれば、中国の事をいろいろ教えていただけませんか?」
「ああ、いいよ。じゃあ、オレの部屋に行こうか?」
「いえ、できればボクの部屋で…」
楊梅は、快く承諾してくれた。先に立って歩く彼の後ろを、黙ってついて行く。
『…アレってどれくらい効くのかな…楽しみだ…』
知らず、笑みが零れた。
終わり
(133)
「やべぇ…遅くなっちゃったよ…」
和谷のアパートでの研究会の帰り道、ヒカルは呟いた。もう、あと数分で日付は変わってしまう。
ヒカルの両親は口うるさい方ではないのだが、ヒカルはまだ中学を卒業したばかりのほんの子供だ。
門限は十時と決められていたが、ヒカルはそういうことに頓着せず、たびたび門限を
破っていた。つい昨日も母親に酷く叱られたばかりだった。それも仕方がない。ここ一週間
毎日、無断外泊もしくは午前帰りを続けていた。
流石に今日は早く帰ろうと思っていたのだが、ついつい検討に夢中になって気が付いたら、
すっかり夜半過ぎだった。
『今度破ったら、門限は八時にしますからね!』
母親の言葉が蘇る。
「八時だなんて冗談じゃネエや…」
ヒカルは足は急がせた。
真夜中の冷たい風が、ヒカルの頬や首筋を嬲る。
「うぅ…寒…」
ヒカルはパーカーの前をあわせて、小さく身震いした。ヒカルは薄いTシャツに、パーカーを
引っかけただけの軽装だった。暦の上では春でも、まだ肌寒い日が続いていたのだが……。
今朝目覚めたとき、カーテン越しに感じた穏やかで柔らかい陽射しに、ヒカルは感動した。
空は澄み切って、風も暖かだったので、ヒカルの気持ちもついついゆるみ、薄着で出かけて
しまったのだ。
「…………」
気のせいだろうか―――後ろから誰か付いて来ている。その誰かは歩調を早めると早く、
緩めると遅く、まるで、ヒカルにあわせているように後ろを付いてくる。背中がざわめくのは、
寒いせいだけではない。
―――――気持ち悪い。早く帰ろう……
(134)
ヒカルが駆け出そうとした瞬間、いきなり後ろから抱きつかれた。ヒカルよりずっと背の高い
男が上から覆い被さるように強く抱きしめてきた。
「や……!なに…?」
耳元に荒い息を感じた。背筋に悪寒が走る。
「やだ!離して!」
ヒカルが男の腕を引き離そうと、体を捩ると、ガッと胸を掴まれた。もっとも、ヒカルには
掴めるほどの胸はない。どうやら、ヒカルを女の子と間違えているらしい。
『オレを女と間違えるなんて、マヌケなヤツ…』
ヒカルは安堵の溜息を吐いた。これで誤解は解けるだろう。
だが、男は腕の力を弛めるどころか、ますますきつく締め上げる。ヒカルの背骨が軋む。
「あ…痛…!」
大きな掌が、薄いシャツの上からヒカルの胸を撫でまわし、強く弱く揉み始めた。
「あぁ!イヤ!」
ハァハァと荒い息が耳の奥でこだまする。ヒカルは藻掻いた。
「大丈夫…怖くないよ…怖くないからね…ヒカルちゃん…」
ヒカルは「えっ?」と、一瞬だけ抵抗をやめてしまった。その隙を逃さず、男がヒカルの鼻先に
何か瓶を押しつけた。意識が遠のく。
そこから後の記憶はヒカルにはなかった。
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