初めての体験 133
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「やべぇ…遅くなっちゃったよ…」
和谷のアパートでの研究会の帰り道、ヒカルは呟いた。もう、あと数分で日付は変わってしまう。
ヒカルの両親は口うるさい方ではないのだが、ヒカルはまだ中学を卒業したばかりのほんの子供だ。
門限は十時と決められていたが、ヒカルはそういうことに頓着せず、たびたび門限を
破っていた。つい昨日も母親に酷く叱られたばかりだった。それも仕方がない。ここ一週間
毎日、無断外泊もしくは午前帰りを続けていた。
流石に今日は早く帰ろうと思っていたのだが、ついつい検討に夢中になって気が付いたら、
すっかり夜半過ぎだった。
『今度破ったら、門限は八時にしますからね!』
母親の言葉が蘇る。
「八時だなんて冗談じゃネエや…」
ヒカルは足は急がせた。
真夜中の冷たい風が、ヒカルの頬や首筋を嬲る。
「うぅ…寒…」
ヒカルはパーカーの前をあわせて、小さく身震いした。ヒカルは薄いTシャツに、パーカーを
引っかけただけの軽装だった。暦の上では春でも、まだ肌寒い日が続いていたのだが……。
今朝目覚めたとき、カーテン越しに感じた穏やかで柔らかい陽射しに、ヒカルは感動した。
空は澄み切って、風も暖かだったので、ヒカルの気持ちもついついゆるみ、薄着で出かけて
しまったのだ。
「…………」
気のせいだろうか―――後ろから誰か付いて来ている。その誰かは歩調を早めると早く、
緩めると遅く、まるで、ヒカルにあわせているように後ろを付いてくる。背中がざわめくのは、
寒いせいだけではない。
―――――気持ち悪い。早く帰ろう……
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