初めての体験 134


(134)
 ヒカルが駆け出そうとした瞬間、いきなり後ろから抱きつかれた。ヒカルよりずっと背の高い
男が上から覆い被さるように強く抱きしめてきた。
「や……!なに…?」
耳元に荒い息を感じた。背筋に悪寒が走る。
「やだ!離して!」
 ヒカルが男の腕を引き離そうと、体を捩ると、ガッと胸を掴まれた。もっとも、ヒカルには
掴めるほどの胸はない。どうやら、ヒカルを女の子と間違えているらしい。
『オレを女と間違えるなんて、マヌケなヤツ…』
ヒカルは安堵の溜息を吐いた。これで誤解は解けるだろう。
だが、男は腕の力を弛めるどころか、ますますきつく締め上げる。ヒカルの背骨が軋む。
「あ…痛…!」
大きな掌が、薄いシャツの上からヒカルの胸を撫でまわし、強く弱く揉み始めた。
「あぁ!イヤ!」
ハァハァと荒い息が耳の奥でこだまする。ヒカルは藻掻いた。
「大丈夫…怖くないよ…怖くないからね…ヒカルちゃん…」
 ヒカルは「えっ?」と、一瞬だけ抵抗をやめてしまった。その隙を逃さず、男がヒカルの鼻先に
何か瓶を押しつけた。意識が遠のく。
 そこから後の記憶はヒカルにはなかった。



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