平安幻想異聞録-異聞- 136
(136)
(やってやろうじゃねぇか)
失敗して物笑いの種になるにしたって、恥をかくのは自分を指名した座間だ。
かまうことはない。
弓を置く。
ヒカルは重い体を持ち上げた。
下半身に鈍痛が走った。そのまま崩れ落ちそうになる体を必死で支える。
紫宸殿から中央への階段を降りる途中、女房の一人が、おかしそうに口元を
ほころばせながらヒカルの方に寄ってきて
「これを」
と、細い茎に5つ6つの小さな黄色い花のついた野菊の枝を差し出した。
舞い手は皆、頭に、曲やその儀式に合った花を飾るのが慣いだ。
ヒカルは、その可憐な花枝を受け取ると、無造作に冠に挿した。
会場の中央に進み出る。
一旦鳴り止んでいた楽の音が再開された。
舞いなんて舞ったことはほとんどないが、佐為にくっついて貴族の宴会に
顔を出したり、検非違使として儀式の警護にあたったりの機会に、何度も
見てはいる。舞いの振りなんてみんな似たり寄ったりだ。きっとなんとか
なるだろう。失敗したって知るもんか。
楽の流れに合わせてヒカルはゆっくり手をあげる。
昨日の夜の恥行のせいで体の力が、どこもかしこも萎えている。その腕を
あげたまま支えるのだって一苦労だ。
始めは高麗笛の独奏。初太鼓が鳴り、篳篥の節が入る。
とにかく、倒れないように舞おう。
今のヒカルにはそれが精一杯だった。
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