平安幻想異聞録-異聞- 139
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ヒカルは弓を手にしたまま足早に、紫宸殿から渡り廊下を通って
宜陽殿に抜ける。
ゆっくり歩くとふらふらするから、これぐらいてきぱきと動いたほうがいい。
公式な儀式はこれで一通り終わりだが、帝が退出した後も、貴族達は
饗応を続ける。
いや、むしろこれからが本番かもしれない。帝が下がれば、あとは無礼講。
夜明けまで飲めや歌えの乱痴気騒ぎだ。
座間もそれに朝までつきあうはずだ。
その分、今夜は自分が座間の相手をせずにすむのが嬉しい。
だが、警護役である以上、座間の帰りを守るために、どこかで宴が終わるのを
待たなければならないのだ。
前に加賀に教えてもらった書庫に行こうかと考えたその時、うしろからヒカルを
呼び止める声があった。
懐しい声だった。
懐しすぎて怖くて振り返れなかった。
後ろから足音が近づいてきて、ヒカルを背中からそっと抱きしめた。
「佐為……」
ヒカルはその名を、大事そうに口にした。
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