アキラとヒカル−湯煙旅情編− 14
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「待てよ。」
細い腕を捕まえると、アキラは駄々っ子のように抗った。
「こっち向けって。」
加賀に両肩を捕らえられ、眼上の加賀と対面する形となった。
アキラは、例のふくれっ面をして加賀から目をそらした。
「なに怒ってんだ?」
聞いても目をそらしたままで、何も言わない。
「・・・おら、部屋行くぞ。」。
アキラは無反応のままそっぽを向いている。なぜ急に不機嫌になったのか、訳がわからんが無理強いしてまで連れてゆきたくはない。
「じゃ、進藤の布団にでも潜り込んで寝ろ。オレはどっちでもいいぜ。」
そう言って加賀が歩き出すと、アキラはしばらく加賀の背中を睨んでいたが、すぐ大人しく後をついてきた。後方にアキラの気配を感じると、加賀は複雑な心境だった。
・・・眠れねえな、今夜は・・・。
加賀達の部屋は、ヒカル達の新館とはロビーを挟んで反対側にあった。比べるとエレベーターからして作りが古い。加賀達の部屋は5階にあった。
エレベーターを降りると、新館に比べ天井が低く、細い廊下の赤絨毯をふたりは無言で歩いた。薄暗い廊下は少々辛気臭く、加賀はふと、場末に流れてきた男女の末路を歌った歌を思い浮かべた。
「おっと、ここだ。」
加賀が部屋のキーを差し入れる。
「おまえらの部屋と比べりゃ、かなり狭いがな、入れよ。」
加賀が促す。アキラは一瞬躊躇するが、促されるまま部屋に入った。明かりをつけると二組の布団が既に敷かれてあった。
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