ピングー 14
(14)
進藤ヒカルに関してはいろいろと思うところがある。
まだ初心者だったはずの彼が、子供囲碁大会で示した才能の片鱗。
新初段戦での不可解な打ち回し。
本因坊秀作への偏執的ともいえるこだわり。
彼がまだ小学生の時に打った、塔矢アキラを負かしたという一局。
そうだ、あの時から、何か色々なことの運命の歯車がまわりはじめたような、そんな
気がするのだ。
――そして、「SAI」。
そのまわりはじめた運命の歯車の、軸になっているのは、間違いなくこの名前。
どこの誰なのか、あるいはネットの上にしかいないプログラムにつけられた名前に
過ぎないのか。
ネット囲碁の世界を引っかき回すだけ引っかき回して去った、幽霊のような棋士。
その「SAI」と呼ばれる存在に、進藤ヒカルが深く関わっていることは確かだ。
(打ちたいな)
あの伝説となった塔矢行洋との一局を、今思い出しただけでも、背中がぞくぞくして、
手が汗ばむ。
塔矢行洋も進藤ヒカルも、「SAI」に関しては黙して語らないが、ひょっとしたら、
自分がこのまま彼との関係を深くしていけば、聞きだすことが出来るかもしれない。
「SAI」と呼ばれた存在の行方を。
緒方の眼下で、布団の中でまるまっていた体が動いた。
差し込む朝の光りが揺らめいた気がした。
音もなく、進藤ヒカルがまぶたを開ける。
どちらにしろ、更に上へとのし上がって行こうとする自分に、未成年に淫行などという
スキャンダルは甚だ不似合いだ。下手すると謹慎処分をくらって大事な手合を不戦敗で
落とすことだって有り得る。
進藤ヒカルの口をいかに封じるか。
そして、緒方は数ある次の一手の可能性の中から、最強でも最善でもなく、ただ面白い
だけの一手を選んだのだ。
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