金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 14 - 15
(14)
「じゃあ、外歩いても誰も気付かねえかな?」
「絶対大丈夫。女の子にしか見えねえモン。」
力強い和谷の言葉にヒカルは自信を持った。
「ちょっと、出てくる…」
と、ヒカルは玄関へと向かう。
「おー行ってこい!」
和谷も元気よく送り出した。
伊角達が、頭にバニーの耳をつけたまま酔いつぶれて眠っている和谷と脱ぎ捨てられた
ヒカルの服を発見したのはそれからかなり後のことだった。
―――――――――――と、こんな長い長いいきさつを、ヒカルはかなり端折ってアキラに説明した。
アキラに理解できたのは、研究会があったこと、宴会でお酒を飲んだこと、その勢いで女装を
したことだけだった。
………………だけど、やっと、わかったよ。
先程からの彼の怪しい言動の数々が…………。
「……要するにキミ…酔っているんだね?」
「酔ってねえモン…」
酔っぱらいの「酔ってない」ほど当てにならない物はない。それなのに、ヒカルはアキラに
顔を近づけて「酔ってない」と何度も主張した。
間近に迫ったヒカルの顔はほんのり桜色に色付いて、目元はトロンと潤んでいる。柔らかそうな
髪からはシャンプーの香に混じって、微かにビールの匂いがした。
(15)
しっかり酔っているじゃないか…………
アキラは小さく溜息を吐くと、ヒカルの腕を掴んだ。
「送っていくよ。和谷君の家はどこ?」
「え〜いいよ。それより、オレ、電車に乗りたい…」
電車に乗って、いったい何処へ行こうというのだ!?
ヒカルは自分の言動が怪しいだなんて、これっぽっちも思っていないようだが、どこから
どう見ても彼はおかしい。放っておくことなど出来るわけがない。
「ダメだよ!キミ、黙って出てきたんだろ?」
きっと、友人達が心配しているに違いない。そう窘めるアキラに、ヒカルはプッと、頬をふくらませた。
「黙ってじゃネエよ!ちゃんと和谷に言ってきたモン!」
「和谷君に………?」
自信たっぷりに頷くヒカルを疑わしげに見る。さっき訊いた彼の話からは、他の友人達がどういう
状態だったのかまではわからなかった。ヒカルの話は酔っているためか、まるで要領を得ないのだ。
ただ、こんな彼を平気で外へ出すくらいだから、和谷の方もまともな状態だったとは言い難い
であろうことは容易に想像できた。
ここに来るまでに、ヒカルは何度か声をかけられたと言っていた。何事もなかったから
よかったものの、もし、その相手が質のよくない奴で、ヒカルの情況に気が付いていたらと
思うとゾッとする。攫われて乱暴されていたかもしれないのだ。
いや、それよりも、外見は可愛らしい女の子でもヒカルは本当は男だ。例え、貞操の危機に
陥るようなことにはならなかったとしても、騙されたと逆上した相手に暴力を振るわれる
可能性もあったのだ。
だけど、ヒカルはそんなアキラの気持ちなどお構いなしに、しきりに「一緒に行こう」と
ねだっていた。
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