失着点・龍界編 14 - 15


(14)
ヒカルはあちこちにかすり傷を負っていたものの、背中の打撲位で入院も3日
程度だという。病院の中庭でベンチに3人で腰掛ける。
「びっくりしたよ、塔矢,すげえ恐い顔して立ってンだもん。誰か死んだの
かと思った。」
「…驚いたのはこっちだよ…。あの緒方さんがあんなふうだったから…」
ヒカルはちらりと緒方を見る。緒方は視線を逸らしてタバコを吹かしている。
ヒカルが一度だけ緒方と関係を持った事をアキラは知らない。
そのことは緒方と二人だけの一生の秘密だ。それは暗黙の了解となっている。
特に、アキラには。
それでも、緒方が自分の事を心配してくれた事がヒカルは嬉しかった。

突然行方をくらまして棋院の人たちに多大な迷惑と心配をかけた二人の処分を
決める場で、桑原と共に緒方が終始庇ってくれたと言う話を聞いている。
緒方にはいろんな意味で感謝している。
そして、こうして話を聞いて駆け付けてくれたアキラにも。
だからこそ、ゆうべの出来事が重くヒカルの胸を締め付ける。
アキラにはこれ以上心配をかけたくない。自分に何かあったら、こうして
アキラは何ごとに引き換えてでも自分との事を優先させてしまうだろう。
今回の件も自分だけの力で解決しなければいけない。


(15)
車はスピードがかなり落ちていたのでヒカルの体をボンネットに跳ね上げ
たものの、意識がはっきりあって、ヒカルは病院に行く事を必死で断った。
それでも運転していた人が良心的でヒカルを自宅まで送り、
連絡先を置いて行った。
話を聞いて心配する両親をなだめて体を洗いうがいをし、右手首に男に掴まれ
た痕が痣となって残っていたのを隠す為にリストバンドをはめた。
皮肉にも事故のおかげで体に所々残った痣をごまかす事が出来たのだ。
あくる日ヒカルは大手合いに行こうとしたが体に力が入らず、結局病院に
出向き検査を受けるため入院することになってしまった。骨には異常がなく、
背中の打ち身と、何か精神的なものが原因だろうと言われた。
三谷は…ヒカルの事故を見て一たん戻ろうとしていたが、運転手が降りて
来たのを見て立ち去ってしまった。
「…本当に…大した事はないんだね…良かった…。」
アキラが心の底から安堵したような目をヒカルに向ける。ここが病院でなく
二人きりだったら間違いなく抱き締め合い、長いキスを交わしていた。
だがヒカルは、真直ぐ向けられて来るアキラの目、誠実な言葉だけが
語られる唇、それから一瞬、自分の目を反らした。
やっぱり綺麗だな、と思う。
アキラのどこまでも澄んだ深い色の瞳と薄く形が良い唇。
いまのアキラに比べて、自分はあまりに汚れている。そう思えてしまうのだ。
そんなヒカルの苦しい胸の内を読み切れずアキラが怪訝そうな顔をした。
「アキラ君、オレはもう行くけど、君はどうする?」
黙ってそんな二人の様子を見ていた緒方が声をかける。



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