身代わり 14 - 18
(14)
すでにジッパーは下ろされ、下着越しに冴木の手を感じていた。そこはもう湿っている。
さらに大胆に冴木が触れてくるが、ヒカルはその快楽に溺れきることができなかった。
(……オレだって……佐為が……佐為じゃなくちゃ……)
ヒカルは自分を哀しそうに見下ろしている佐為に必死に言いつのった。
(佐為……ゴメン、佐為……)
泣きそうな声が佐為の耳に届く。
《ヒカル……》
冴木の手によって喘がされていても、ヒカルは佐為を欲していた。
そのことがわかった佐為は、こだわりを捨てた。
冴木の背後にまわり、ヒカルにくちづけた。そして手を、冴木のそれにかさねた。
《冴木さんはわたしの代わりです。そう思いなさい》
白くてなめらかな手が、自分に触れる。
それを見た瞬間、ヒカルは冴木の存在を忘れた。
「ひぁっ! はんっぅ!!」
いきなりヒカルの反応が強くなった。
それに気を良くした冴木は本格的に身を入れることにした。
自分の肩をつかんでいるヒカルの腕をとり、畳へと押し倒した。
冴木はすでにここがどこかも忘れ、誰かが来るかもしれないという危惧さえしなかった。
「きついよな、ココ……」
言いながらジーンズのぼたんを外して、下着と一緒に足首までずり下げた。
ヒカルの抵抗はなかった。
現れたそこは冴木から見れば無毛と言ってよく、嫌悪感は湧かなかった。
くっ、と皮を剥いて先端を出してやる。そしておそるおそる舌を這わせた。
「やぁっ……んっ!」
ずいぶんとかわいい声を出す。そこらの女より、ずっとそそられる。
こぶしの中にペニスを収めると、舐めながら優しくしごいた。
生温かい舌の感触に、ヒカルはたまらず声を上げつづける。
ヒカルの身体は素直だった。と言うよりも、非常に幼い。なにをしても感じるようだ。
(15)
柔らかな袋を指先でいじりながら、くちゅくちゅと音をたててしゃぶる。
するとその音に合わせるかのように、ヒカルの腰が揺れはじめた。
その様子はどこか慣れているように思えた。冴木は眉をひそめ、動きをとめた。
そう言えばもう達してもいいころではないだろうか。
なのにヒカルはまだだ。意外に忍耐があるのか、それとも自分がヘタなのか。
「さ……ぁい、んん……」
もつれた舌で名前を呼ばれた。先をねだる声だ。些細なことなどどうでも良くなり、冴木は
また没頭した。
快感に沈みながら、ヒカルは何度も佐為とキスをしていた。
「ん、ぁさ、んぃ……」
《ヒカル、ヒカル、わたしのヒカル……》
ヒカルは佐為しか見ていなかった。
名残りおしげに佐為の唇が離れ、おもむろに下へと移動していった。
それを目で追う。佐為はヒカルの足のあいだに顔を埋めた。
「あああっひあっん!!」
語尾で悲鳴は跳ね上がった。ヒカルは冴木の口のなかに射精した。
「っんぐっぅ!」
流れ込んできた精液を、冴木は思わず飲んでしまった。
味も臭いもうすかったが、さすがに気持ち悪い。口元を何度もこする。
《どうでした、ヒカル》
ヒカルは吐精後の脱力感のなかにいた。
(うん……良かった、佐為………………佐為!!)
佐為と重なるようにしている冴木を見て、いきなり思考がはっきりした。
今の状況を思いやって、初めてヒカルは青ざめた。
(オオオ、オレっ、冴木さんと!?)
自分が、冴木が信じられない。ヒカルは佐為にすがるように身体を動かした。
《わたしは知りませんよ。あなたが悪いんですからね》
(佐為〜!)
とりあえず衣服を正さなければ。力の入らない手で、ジーンズを引っ張り上げる。
正気に返ったヒカルだが、冴木は熱にうかされたままだった。
(16)
いつのまにか冴木のものはヒカル以上に張りつめていた。
その処理方法は、一つしか思い浮かばなかった。
「ぃてっ! 冴木さん!?」
ものすごい力で引き倒され、背中に痛みがはしる。しかしそれよりも冴木が気になった。
冴木は体重をかけながら、ヒカルのトレーナーをまくりあげ、その腹に吸いついた。そして
ふたたびヒカルの下肢をさらそうとした。
ヒカルはかかとでのしかかる冴木を蹴った。しかし怯むことがない。
「ちょっ……! ヤダッ」
《やめてください! 冴木さん!!》
佐為とヒカルは言うが、もちろん冴木にはその言葉は入ってこない。
やめる気など毛頭なかった。
「っうあっ!」
歯を立てられた。痛くて何とか逃れようとするのに、冴木は放してくれない。
さきほどと変わって嫌がるヒカルに冴木は苛立つ。
ヒカルをはがいじめにし、手探りで胸の突起を探し当てると、それを強くつまみあげた。
「痛いっ! 痛いってば!」
執拗に乳首を攻め立ててくるが、ヒカルは少しも気持ち良くなかった。
「少しくらいいいだろっ」
「なにが!?」
怒声にヒカルはたじたじとなる。冴木はなにがしたいのだろうか。
とにかく早くこの状態をなんとかしなければ。ヒカルは出口に向かって這いずりだした。
しかし足をつかまれ引き戻された。すごい力だった。
このままだとやばい。なにがやばいか具体的にはわからないが、とにかくそう思った。
佐為はヒカル以上にこの危機にうろたえていた。
《ああ、どうしましょうっ》
自分にはなにもできない。万事休すだ。佐為は涙目になった。
そのとき、柔らかな声が聞こえた。
(17)
冷水をかけられた心地がした。
ヒカルと冴木はもつれあったまま、戸口に立つその人物を見た。
「なにをしているのかな? 二人とも」
「し、白川先生……」
二人の声がはもった。白川は人当たりのいい笑みを浮かべた。
「ここは遊ぶところじゃないよ」
「ハイ、すみません……」
はじかれたように冴木はヒカルの上からどいた。
「冴木くん、和谷くんたちが売店にいるから、呼んで来てもらえるかな」
柔和な雰囲気をたたえているのに、白川はどこか恐かった。
冴木は転がるようにして部屋を飛び出した。階段を全速力で駆け下りる。エレベータを使う
余裕はなかった。
一階に着いた冴木にすぐ和谷が呼びかけた。
「冴木さん、白川先生との用事は済んだの?」
「用事?」
息を切らしながら聞き返す冴木に和谷はうなずく。
「うん。それで下で待っててくれって言われた。そうだ、これ」
和谷が缶ジュースを放り投げてきた。
「口直しにどうぞ、って」
その一言に冴木は頭を殴られた気がした。
いったい白川はどこからどこまでを見たのだろうか。
(まさか、俺が進藤にしてるとこを……)
考えたくない事実に、身体中の血の気が失せていく。震える手でジュースを一気にあおる。
その甘さに、冴木はさきほど口にした苦味を思い出す。
(……進藤になんてことしたんだ、俺)
これ以上はないというほどの自己嫌悪に陥った。
(18)
重みが消えて、ヒカルは安堵した。佐為も大きく息を吐いている。
「大丈夫ですか?」
うつぶせのまま見上げているヒカルを白川が起こした。
「せ、先生、あの、どうも、その……」
お礼を言いたいのだが、言えば悟られてしまう気がしてヒカルは口ごもった。
いや、もうバレているのかもしれない。
白川は黙ったままヒカルの乱れた髪を手で梳いている。
いつもと変わらぬその雰囲気に、ヒカルの気持ちもほぐれていった。
「先生は、いつから来てたんですか」
ヒカルは思い切って聞いてみた。だが白川は笑みを浮かべたまま答えなかった。
じつは部屋の外までヒカルの喘ぎ声は聞こえてきていた。
すぐに状況を察した白川は、続いてやってきた和谷に小金を握らせ、売店でなにか飲みもの
を買うように言った。もちろん後から来た者の足止めも言いつけた。
しかしこのことをヒカルに言う必要はない。
「白川先生?」
見つめてくる白川をヒカルは見上げる。その様に白川は唾液を飲みこんだ。
二人の様子を見ているあいだ、白川は平静でいられたわけではなかった。
(……すぐに止めに入らなかった私も、冴木くんと変わらないですね)
自分が冴木のように行動に起こさないのは、それだけ理性が働いているからだ。
それがありがたくもあり、口惜しくもあった。
《ヒカル、誰か来ましたよ》
笑い声が聞こえる。和谷たちが来たのだ。白川はもう一度ヒカルを見た。
「あまりオフザケは良くないよ」
素直にヒカルはうなずいた。もう二度とあんな目にはあいたくない。
だが、もう一度あの快感は味わいたいと思ってしまった。
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