平安幻想異聞録-異聞- 142


(142)
宴が明けて、九月の十日。
この頃からいよいよ秋も深まり、木々も深く色付き始める。
内裏は、宴の後のどこか緩んだ空気に包まれ、誰も彼も動きが重い。
ヒカルは、宜陽殿の書庫の入り口あたりの柱に身をもたれさせかけて、
秋の空を眺めていた。
夕べはさすがに座間達も、ヒカルに床の相手をさせずに寝てしまったので、
今日はヒカルもそんなには眠くない。
だけど、人の気配の少ないこの場所にいると気が落ち着いた。
1回、加賀が前を偶然通りかかったと言って顔を出したが、様子を見て取って
すぐに立ち去り、ヒカルをひとりにしておいてくれた。
その加賀の話によると、今日も佐為は参内を休んでいるらしい。
肩と背に残る佐為の感触を追いながら、ヒカルは
二人が最後にまともに顔を合わせた日の事を思い出す。
賀茂邸に泊まることが決まった、あの夕方。
木戸を閉めようとした賀茂アキラを制して、思わず飛びだしていた自分。
雲の垂れ込めた空。昼下がりの薄明るい道をひとりで帰路につく佐為の後ろ姿を見て、
何か、胸の奥から熱いものが込み上げてきて、追いかけずにはいられなかった。
そこが天下の往来だということも頭から飛んでいた。
艶やかな黒髪を風に揺らして振り返るその人に、気がついたら唇を重ねていた。
ただ、触れ合うだけの口付けだったけれど。
ヒカルは無意識に、自分の唇に指でなぞっていた。
あれから幾日もたっていない筈なのに、それは昨日のように思い起こされながら、
ひどく遠い。
あの時も、佐為を離したくなかったが、昨日、内裏で会ったとき、もし自制できずに、
振り返って佐為に抱きついていたら、その離れがたさはあの時の比ではなかっただろう。
清涼殿の方がざわめいた。
議事が終わったらしい気配にヒカルは立ち上がって、控えの間に向かう。
座間と菅原は、幾人かの公卿とひそひそと言葉を交わしながら、宜陽殿へと渡ってきた。
公卿達が、廊下に出て待っていたヒカルをじろじろと見た。
どうせ、ろくでもない悪巧みでもしていたに違いない。
聞きたくもないので、ヒカルは意識の中で耳を塞ぎ、帰途のため、牛車にむかった。



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