平安幻想異聞録-異聞- 146 - 150
(146)
「ほんに、ありきたりの稚児などでは望めぬさまよ」
公卿たちの的外れな褒め言葉など、ヒカルの耳には届かない。ただ、ヒカルは中を
擦られる快楽に鳴きつづける。
「はんっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、…」
瞬間、ヒカルはその男の腹に向けて、自分の白泥液をも放っていた。
正直、二人目の男が終わった時点で、ヒカルに施された薬の効果はほとんど
切れていたが、一度火がついてしまった体は、感覚だけが暴走してしまったように
熱が収まらず、三人目の男の摩羅もなんなく銜え込んでしまう。
「はぁぁ……ぁ」
三人目の男がゆっくりと腰を揺らし始める。
「あまり食い急ぐのは、無粋というものであろう、お二方、こういったものはもっと
ゆうるりと楽しまねば、座間殿に、それほどの床日照りかと笑われますぞ」
立て続けの絶頂の余韻にざわめいているヒカルの内壁を男はネチネチと刺激する。
「ハァ…あ…はぁ……はぁ…はぁ…」
男の下でヒカルが、体に再びこもりはじめた熱に苦しげに喘ぐ。その幼い中心のものが
体を支配する感覚に流されて、頭をもたげ始めていた。
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平安の夜の闇は深い。
魍魎跋扈、百鬼夜行の通る碁盤の目に張り巡らされた往路。
だが、その妖し、物の怪がどこから出現するのかを知っているものは、名のあ
る陰陽師の中にもいないという。
人によっては、あだし野から、いや鳥辺野からとも聞く。
だけど、とヒカルは思う。妖しが生まれるのだとしたら、それはきっと人の
心の中の闇からだ。
その闇は、月のない日の夜の色より濃く、山中にひっそりと口をあける
洞窟よりも深く底が知れない。
そんな得体のしれない不気味さを、自分を組み敷く男達の目はたたえていた。
権力欲とか、情欲とかそういうものが渦巻いて、黒々しいよどみになって、その
瞳の向こうに見える気がした。
この三人の男達だけではない、座間も菅原もその目、心の奥に同じよどみを
抱えている。
そして、その闇はきっと、人が誰でも持っているものなのだ。
そう、ヒカル自身や、佐為だって。
その考えはヒカルがきちんと思考して生まれたわけではない。
唐渡りの香のせいで分断された思考のまにまに、まるで、泡のようにぷかりと
浮かんできたのだ。
一通り事が終わり、順番が一巡すると、公卿達にも余裕が出てきたのか、
彼らはようやく、中途半端に脱がされかけた単衣を、ヒカルの体からはぎ取ろうと
した。
御簾の隙間から、秋の夜風が迷いこんでいた。
庭でコロコロと鈴を転がすように鳴く虫の調べが、男達の欲に汚れた息遣いに
混じって、ヒカルの耳に届く。
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うつぶせに大きく胸を喘がせているヒカルは、単衣の前身ごろをきつく握って
それに抗う。なおも強引に、胸元のヒカルの手を引きはがそうとした公卿は、
他の公卿に止められた。
「無理矢理というのも風情のないことよ。このままでも十分に物狂おしい様子
ではないか」
ヒカルは着衣の襟の合わせのあたりを押さえ、半身をかばうように体を丸め
ていたが、その着物の裾は、最初の立て続けの乱暴な情交のせいで、乱れ、
はだけられていた。
「河原の遊女もかくやという様よ」
太もものかなり上の方までずり上がり、グシャリとシワがよって、ヒカルの足を
夜目にさらす単衣の裾は錆びた鉄を思わせるひなびた辰砂の赤い色。
その裾からすんなりと延びる無駄な肉のついていない、白蛇のようになめらかな足。
しかも、その肝心の足の根元の方は、微妙に布に隠れていて見えそうで見えず、
そのほの暗い奥にあるだろう果実の味は、公卿達の淫靡な想像力を、なまじっか
全てを目の前にはだけられた時よりも燃え立たせたのだ。
情欲に駆られて男達は生つばをのんだ。
船遊びで、男を誘う遊女さながら。
「緋色の袴を着せれば、さそや似合うであろうよ」
赤い袴は遊び女の印だ。
一番年長の男が、誘われるように思わずといった手つきでヒカルの足に触れた。
ヒカルは丸めていた体をますます小さく縮めた。
「なんじゃ、拗ねておるのか。わしらの方が先にいい思いをしてしまったからのう。
すまんことをした」
男の手が、ヒカルの膝のあたりから、太ももを這い登り、ついに、辰砂の単衣の影に
隠された部分に忍び入った。
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ヒカルが怯えたように太ももを擦りあわせ、足を閉じようとする。
その時、男がそれに気付いた。
「おお、このような所にもったいない」
それは、ヒカルの左内股に、ミミズ腫れのように残る、あの「印」だった。
熱を持つその忌まわしい傷跡を指先でたどられて、ヒカルが嫌がってうめく。
「今度は、そちもちゃんと良い心地にしてやるでのう。怖がるでない」
(いったいオレはこんな所でなにをやっているんだろう)
ヒカルは、腿の間に割り入ってこようとする男の細いが骨張った感触を意識の外に
追いだそうとしながら朦朧と考える。
今思えば、ヒカルに薬を飲ませに来たときの座間達の態度が少しいつもと違っていた。
それも、この状況を考えれば合点がいった。
「昨日の菊の宴での舞い、見事であった。まこと女子でもなかなか見られる艶なる仕草、
忘れようとて忘れられぬわ」
「うむ、儂も昨日の夢にまで、そなたが出てきたわい。それで、座間殿に頼み込ん
でみたのじゃ。議題での評決で座間殿の味方をする話と供にのう」
「さすが、座間殿。話しがわかっておられるわい」
ヒカルが、頬を引きつらせて、唇を噛んだ。その時、男の手が、ついにヒカルの
そこに届いたのだ。無残に散らされてもなお、ひそやかに、その奥津城に息づく
けなげなる菊の花。その回りでしばらく指を遊ばしてから、ネッチリとした音を
させて、爪先からその菊の座に沈めた。
そこから先は早かった。男の指が、先に注ぎ込まれた精液に満たされたそこを
淫猥に掻き回し、なぶり、関節を使って、ヒカルの一番弱い所を攻めてくる。
ヒカルの肉壁の何処が最も猥らな責めに弱いのか、男はすでに、先のまぐわいで
承知の上だ。指の二本三本など使わなくとも、その場所さえ判ってしまえば、
ヒカルを体を焼く快楽のるつぼに堕としてしまうことなど、簡単だった。
男のたった一本の指の動きに、ヒカルは翻弄され、自由を奪われる。下肢から
せり上ってくる熱に耐えられずに、声を上げ、すすり泣く。
それはヒカルの闇だった。
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ヒカルの体はこの上なく、肉の快楽に弱い。その弱点を知られてしまえば、
こうして誰にでも、いいようにその体を操られ、心の中に巣食う闇を
引き出されてしまう。そして、支配されるのだ。
「ここのこのほぐれ具合、普段から座間殿にも、ずいぶん可愛がられて
いるようじゃのう」
「座間殿もお人が悪い。このような楽しみを隠しておくなど」
しかも、ヒカルはこの座間邸での数日間で、その自らの中の闇に身を
投じることに徐々にだが、自分でも気付かぬうちに、抵抗を感じなくなってきて
いた。その方が楽だから。心で意地を張っても、体が先に音をあげる。
香や薬のせいでなく。現に、薬の効力も切れ、香の香りが秋の夜風に掃き
寄せられても、こうして先の交わりの熱の名残を、指でたぐり寄せられただけで、
よがり、まぶたを涙の露に濡らす。
「もう…や……だ……」
たった一本の指に中を探られただけにもかかわらず、指先まで火照りに
紅く染めて、ヒカルが嗚咽をもらす。
「そうかそうか、此度はそなたの気持ちのいいようにと思ったが、少々
度が過ぎたかいのう?」
ヒカルの肉ひだを玩んでいた公卿が、うつぶせのままのヒカルを裏返して
仰向けにする。
秘門への指攻めに骨抜きにされたヒカルの体は、今度は楽に言いなりになった。
公卿は、単衣を着たままのヒカルの腰を丁度いい角度に持ち上げて浮かすと、
そこに自分の肉槍を突き入れた。
悲鳴とともに、ヒカルの背に痙攣が走った。
己の肉鞘に、熱い剛直が侵入しただけで、ヒカルは達してしまったのだ。
腹下程までまくり上げられた単衣の裾を、ヒカルの吐きだしたものが汚した。
かまわずに公卿が腰を使いだす。
刺激されて、すぐにヒカルのモノは起ち上がり始めた。
快楽に喘ぎながら、ヒカルが公卿の背に爪を立てた。
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