裏階段 三谷編 15
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痛みに身をよじる淡い小麦色の進藤の肌が、青白く変化して現実に体の下にいる彼に
成り変わる。
自分は、たいして愛情を持たなくても相手を抱く事が出来る人間だった。と同時に、
愛情の欠片も持たない相手に抱かれる事も出来た。
伯父に体を弄られながら碁盤を見つめる事も多かった。胡座をかいた伯父に手招きを
される度、何かに失望しながら、何かを憎みながらもそんな心をどこかに追いやって
服を脱ぎ、伯父の肉体の一部を体に埋めて伯父の出す詰碁を解いた。
解けるまでは終わらなかった。詰め後は急速に難解になっていった。
囲碁を習う部屋や、自分が使う布団の不自然な汚れが伯父の家人に気付かれない
はずがなかった。
独立して家を出た子供達の代わりに、おかみさんは伯父が連れて来た自分の事を
可愛がってくれたが、伯父との肉体的な関係が始まってからはその事が精神的な
負担になっていった。
ある時、学校から帰るとおかみさんが庭に立っていた。来春から通う中学校について
相談しなければならなかった。「ただいま」と声を出そうとした瞬間におかみさんから
手に持っていたバケツの水を顔に叩き付けられた。
「…泥棒猫!!」
忌々しそうに家の中に入って音をたてて戸を閉じるおかみさんの後ろ姿が気の毒で、
ただ自分はため息をついてその場に立ち尽くすしかなかった。
冷たい風の中で学校の指定のコートから水滴が落ちるのを漠然と見つめていた。
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