指話 15
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そしてドアが開いて、驚いた。
パジャマの上にガウンというラフな格好であの人が立っていたからだ。
―どこか具合でも…?
もしそうなら上がり込む訳にはいかない。タイミングが悪かったと思った。
―そういうのじゃない…君の方こそどうしたんだい?
―進藤が…、
会いたかったという本音を塗り込めるようにして夢中で言葉を強めた。
―進藤が、囲碁をやめるって…、もう打たないって言うんです。それで…
―進藤が?
その人は壁にもたれてけだるそうに髪をかきあげる。かきあげた髪の中で手を止め、
思い当たるふしがないように首を傾げていた。
―確かに君にとっては一大事だな、それは。…上がりなさい。
―いいんですか…?
―君が構わなければ。
上がって直ぐに酒とタバコの強い残り香がした。リビングに酒瓶が転がっていて
灰皿は吸い殻で溢れていた。明け方まで飲んでいたような様相だった。
良い飲み方をしていなさそうなのは明白だった。
―今日は久々のオフだったものでね。塔矢先生に知れたら大目玉かな。
―言い付けたりしませんよ!、ボク…、
思わず真剣に言ったのがおかしかったのか、あの人にククッと小さく笑われた。
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