平安幻想秘聞録・第一章 15
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ことが終わった後、ヒカルは気怠い身体を夜具に沈ませながら、傍ら
の佐為に顔だけを向けた。
「佐為、あのさぁ」
「何です?光」
小袖の乱れを直した佐為は、優雅な仕種で近づき、火照りの治まった
ヒカルの顔を覗き込み、頬にかかった髪を指先で払った。
「近衛とも、あんなこと、したことあんの?」
ヒカルは佐為の手をそっと押さえながら、そう訪ねた。
佐為は男同士の行為に馴れているように見えたが、この頃はそういう
風習があまり珍しくなかったせいかも知れない。初め、ヒカルが抱きつ
いたとき、佐為には戸惑いがあった。それは、光とは情を交わしたこと
がないからではないか。そう思えた。
「いいえ」
「ほんとに?」
「えぇ。ですが・・・光を、抱きたいと思ったことはあります」
「そう、なんだ。近衛は、それに気がついてた?」
「そうですね。気がついていたかも知れません。光は、人の機微に聡い
ところがありましたから」
それが、好意にしろ悪意にしろね。
「ふーん、オレとは大違いだな」
ヒカルはどちらかといえば鈍感な方だ。特に好意には。幼馴染みから
一歩踏み出したがっていたあかりの気持ちにも気がつかず、知ったのも
本人から、私、ずっとヒカルが好きだったんだよと、過去形で告げられ
た後だった。そして、もう一人、自分を長い間想っていた相手にも。
「佐為はさ、近衛が好き?」
「えぇ。光は、私にとって、一番愛しい子ですよ」
「そっか、良かった・・・」
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