平安幻想異聞録-異聞-<水恋鳥> 15
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腹の底から次々と込み上げる淫声に、喉が震えている。
それでも。いきつく直前、ヒカルは「佐為の顔を見ていきたい」と言った言葉通り、
目を開け、熱に潤んだ瞳で佐為を見上げた。切なげな表情のまま、唇を動かす。
漏れる喘ぎに押されてそれは音にならなかったが、その唇の形が確かに「さ・い」と、
自分の名を形をかたどったのを佐為は見た。
最後までヒカルの甘い声を楽しむつもりが、どうしようもない愛情に突き動かされて、
その唇を自分の唇で塞いでいた。
ヒカルの熱のこもった腕に自分の体が強く抱きしめられるのを感じながら、佐為は
己の精を、最奥に放った。
互いの熱を放出し終わった後も、ゆるゆると唇を重ね、口腔を愛撫しあっていた
二人だったが、佐為の背にまわっていたヒカルの手が、突然ぱたりと床に落ちた。
驚いてヒカルの顔を見れば、深い寝息をたてて眠っていた。
何も口付けの最中に眠らなくても……と思いながら、佐為は抱きしめていた手を
ほどき、ヒカルをそっと床に寝かせる。
しかたがない。男同士の秘め事では、どうしたって女役をするほうに負担がかかる
のだ。
ヒカルの下肢をそっとぬぐって清めてやり、近くに丸められた彼の単衣と狩衣を
重ねて体に羽織らせてやる。汗が冷めていく体を外気にさらしたままでは風邪をひく。
自分も着衣を整えてたち上がり、外の様子を見に行く。
まだ明るい。
どこかでまた赤翡翠が鳴いた。山奥でも珍しい鳥だ。佐為も過去に数えるほどしか
その声を聞いたことはないし、姿に至っては書物でしか知らない。近くに巣でも
かけているのだろうか?
そういえば、赤翡翠が鳴くと雨になるという話を聞いたことがある。
考えながら、佐為は厩の方を覗きに行った。
厩の端に、まだほどかれていない荷物がおいてある。ひとつはヒカルの。ひとつは
自分のものだ。
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