パッチワーク 15


(15)
昨晩も両親は遅くまで話し合っていたようだった。
いや、正確に言うと母が父へ一方的に言い募っていた。
このマンションは世帯毎の防音はきちんとしているがそれぞれの部屋は具合が悪くなったとき家族が
すぐ気づくようにとパーティーションは天井までの高さがないので音は素通りだ。

朝食の時母が父に
「今日、森下先生がいらっしゃいますから」というと
父が驚いたように母の方を見る。
「私が来ていただくようお願いしました。」
「何故」
「私が何を言っても聞いていただけませんでしょう。ですからあなたがお話を聞いて下さる方に
お願いしました。」

森下先生はヒカルの師匠で、いや研究会に行くようになったのは院生になった後だから弟子とは
少し違うのかもしれない。研究会があるのは手合いと同じ木曜だから二人で検討したくてもできなくて
いつも夜ヒカルが僕の部屋に来た後になってしまう。そして父の同期でもある。この狭い世界で父のことを
呼び捨てにしているのは森下先生だけだ。弟子たちにも「打倒!塔矢門下」といつも気合いの入れるそうだ。
前に棋院で身分証明書の写真を撮ってもらったとき順番待ちで僕の前が既に引退されていらしたがやはり父の
同期の方だった。手合いのと同じ日だったので結構混んでいて順番を待つ間に父の若い頃のことを
いろいろ教えて下さった。親鳥の後ろについて行く雛鳥のように父がいつも森下先生の後ろについて
行っていたこと、森下先生も父のことをよく面倒を見ていたこと。「森下君が結婚したあたり
くらいからかな、塔矢君が一人でいるようになったのは」そこで順番が回ってきてしまって後の
お話は伺えなかった。

父は朝食の後、自室に籠もってしまった。



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