失着点・龍界編 15
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車はスピードがかなり落ちていたのでヒカルの体をボンネットに跳ね上げ
たものの、意識がはっきりあって、ヒカルは病院に行く事を必死で断った。
それでも運転していた人が良心的でヒカルを自宅まで送り、
連絡先を置いて行った。
話を聞いて心配する両親をなだめて体を洗いうがいをし、右手首に男に掴まれ
た痕が痣となって残っていたのを隠す為にリストバンドをはめた。
皮肉にも事故のおかげで体に所々残った痣をごまかす事が出来たのだ。
あくる日ヒカルは大手合いに行こうとしたが体に力が入らず、結局病院に
出向き検査を受けるため入院することになってしまった。骨には異常がなく、
背中の打ち身と、何か精神的なものが原因だろうと言われた。
三谷は…ヒカルの事故を見て一たん戻ろうとしていたが、運転手が降りて
来たのを見て立ち去ってしまった。
「…本当に…大した事はないんだね…良かった…。」
アキラが心の底から安堵したような目をヒカルに向ける。ここが病院でなく
二人きりだったら間違いなく抱き締め合い、長いキスを交わしていた。
だがヒカルは、真直ぐ向けられて来るアキラの目、誠実な言葉だけが
語られる唇、それから一瞬、自分の目を反らした。
やっぱり綺麗だな、と思う。
アキラのどこまでも澄んだ深い色の瞳と薄く形が良い唇。
いまのアキラに比べて、自分はあまりに汚れている。そう思えてしまうのだ。
そんなヒカルの苦しい胸の内を読み切れずアキラが怪訝そうな顔をした。
「アキラ君、オレはもう行くけど、君はどうする?」
黙ってそんな二人の様子を見ていた緒方が声をかける。
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