うたかた 15


(15)

 加賀とヒカルはしばらく見つめあった。
 ヒカルは困惑したような瞳をしていたし、加賀はその表情に、虚無感にも似た色を浮かべていた。

 何か言わなきゃ、とヒカルは思った。でも何を言えばいいのかわからない。
「じょ…冗談だよな?」
 言ったとたん、自分が失敗したことを悟った。加賀がすごく怒った表情になったからだ。
「お前…オレがどんな気持ちで…っ」
 そう言い終わらないうちに、加賀はヒカルの肩を強く掴み、再び口づけた。
 ヒカルの方が熱があるはずなのに、加賀の唇が触れる所はもっとずっと熱い。

 どうしよう。
 抵抗しなきゃと思うのに、身体が思うように動かない。
 ただ、オレの肌を撫でる加賀の手と、熱い唇と、痛みを堪えるような瞳が、オレが今この世で感知できるものの全てだった。

「…?」
 ふと、加賀の温度が離れていったのがわかって、ヒカルは瞳を開けた。
「…お前、オレの理性が残ってるうちに帰れ…。このままじゃオレ、本当にお前に何するかわかんねえぞ。」
 加賀はヒカルの視線を避けるように、背を向けて座っていた。

(…加賀……。)
 どうして加賀は、こんなにも辛そうなのだろう。
 加賀が自分に恋愛感情を持っているということに嫌悪感は感じなかった。
 でも自分が加賀のことをどう思っているかは、よくわからない。
(……わかんないよ‥)
 顔を上げて、加賀の後ろ姿を見る。
(────……あ)

 加賀の背中に、佐為の背中がダブった。
 あの夢が、鮮やかによみがえる。

 佐為と加賀は全然似ていないのに、置いていかれる寂しさは同じ。


 気が付くと、加賀のシャツを握りしめていた。
「……なんだよ。」
「…いい…」
「進藤…?」

「何されたっていいよ…」

 だから

 だから、お願い。

「…そばにいて…」


 この不安を 痛みを 寂しさを
 消し去って

 おねがい



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