カルピス・パーティー 15 - 16
(15)
見慣れたアキラの白い肌の上に、見覚えのない斑点のような跡がたくさん付いていた。
跡は、アキラの胸の突起と同じ綺麗な薄い赤色をしたものから消えかかってうっすらと
ココアの泡のような茶色がかった染みを残すのみとなったものまで様々だったが、
それらが薄い皮膚に覆われた鎖骨の辺りから普段は衣服で見えない二の腕、胸や脇腹まで
散らばっている。
ヒカルの心臓がドクンと締め付けられた。
「これ・・・」
「え?」
アキラは切なげに目を閉じたまま、乱れた呼吸のついでに洩れたような声で問い返したが、
しばらく待ってもヒカルから何の答えも返って来ないとねだるように腰を浮かせ、
まだ一つも脱がされていない下半身の衣服のウエスト部分に手を掛けて引っ張る仕草をした。
「進藤・・・しんど・・・はやく・・・っ」
「てゆーか、ちょっと待てよ。これ、何だよ。オマエの」
「え・・・?」
薄く瞼を開けたアキラの、濡れて光る睫毛の向こうで、潤んだ黒い目が不思議そうに
揺れている。
ヒカルは人差し指を伸ばし、アキラの胸の辺りを指して触れた。
その刺激一つにもアキラの体は跳ね上がり、胸の突起が目に見えてピンと立ち上がる。
それを無視してヒカルは言った。
「オマエの体の、これだよ。これ、虫刺されとかじゃねェだろ」
「え。・・・ああ、これ?」
やっと合点がいった様子でアキラは自分の身体の上に手を遣り、ハッハッと小さく息を
乱しながら少し首を持ち上げて覗き込むようにした。
(16)
「これは、大阪に行ってきた時のだよ」
「大阪・・・てことは、・・・社の」
「うん」
アッサリ答えるとアキラはまた頭をフローリングの上に戻し、すぐに続きが再開される
のを期待するように体の力を抜き目を閉じた。
だがヒカルはそろそろと、アキラの胸の皮膚に触れていた人差し指を引っ込めた。
「・・・・・・。進藤?」
漸く異変に気づいたのかアキラが目を開けこちらを見る。
「進藤、・・・もしかしてこれ、嫌だった?」
「・・・・・・」
ヒカルは答えなかった。アキラの肌に散らばった内出血の跡から目が離せない。
顔面に痛みを感じるほど、表情が強張っていくのが自分でわかる。
恐る恐るヒカルは聞いた。
「これ・・・これさぁ、他のとこもこうなってるの」
「うん」
「見せて」
一糸纏わぬ姿になったアキラの身体の隅々に、その印は残されていた。
いつもヒカルが抱いている真っ直ぐな白い脚も、たくさんの跡でその白さを汚されていた。
脚を開かせてみないと分からない、内腿のかなり際どい部分にまで複数の跡が鮮やかに
散っているのを見てヒカルは頭が大きな槌か何かで殴られているようにガンガンしてきた。
「オマエ、こっち帰ってきたのいつだっけ」
「三日前だよ」
「こういう跡ってそんなに何日も、こんなはっきり残るもんなの。オレ何回かオマエに
つけた事あるけど、すぐ消えちゃったじゃん」
「そ・・・れは、場合によるよ」
アキラの声が、何故か動揺するように少し上擦った。
ヒカルの視線を避けるようにアキラが顔を逸らしたのを、しかしヒカルは見ていなかった。
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