白と黒の宴4 15 - 16
(15)
そういう態度とは裏腹に頭の中では社は迷っていた。
別にアキラに自分を誘ったつもりはないかもしれない。
だがここまで彼が危うげでなければ、ヒカルとの間に自分が漬け込む隙を与えなければ
自分だってこんな事はしないと考える。
理屈抜きで押さえ切れない感情も存在する。
その一方でここで焦っては、せっかく振り切ろうとした思いをまた抱える事になる。
(…オレはいったい、何をしようとしとるんや…!)
いろんなものが頭の中を駆け巡り社が激しく混乱し葛藤していたその時だった。
「…明日…勝つんだろうな…」
間近な場所でアキラの唇が動き、温かい呼気が社の頬に触れた。
アキラのその言葉は、それが条件でその先を許すという提示を社に与えた。
社の思考が真っ白になった。
「…ああ…!」
次の瞬間社はアキラの唇に自分の唇を重ねていた。
ゆっくりと温かく柔らかな肉感が互いの意識に奔り、社はそのまま深く押し付けた。
片手を肩から外してアキラの顎を持ち上げ、アキラの閉じたままの唇を吸う。
溜め込んだものを吐き出すように社は夢中になってアキラの唇を貪る。
なぜアキラがキスを許したのかを考える余裕は社にはなかった。
そんな事はもうどうでも良かった。
ひたすらにアキラの唇の感触を味わった。
(16)
あまりの激しさにアキラの目は一度閉じかけて、慌てて見開き社を強い視線で見つめる。
あくまでこれは約束の取り決めであってそれ以上の意味はないと言いたげだった。
社も頭の片隅でそれを理解しながらも、強制するように舌でアキラの唇の隙間を強く愛撫する。
すると意外にもアキラの歯列が開いた。
導かれるように社は舌をアキラの口腔内に差し入れアキラの舌を探る。
アキラの舌を絡め取り強く吸う。
「んんっ…」
アキラの後頭部が後ろの壁に押し付けられ、さらに社の体全体で自分の体を抑え込まれる。
それでもアキラは抵抗しなかった。
ドア付近の薄暗いルームライトのみの室内に、しばらく唾液が行き交う音とその合間に漏れる
呼吸音だけが繰り返される。
そうしながら社はアキラの真意を読み取る事が出来た。
アキラの意識は、壁を隔てた向こうの相手に向けられているのだ。
高永夏に対するものか、ヒカルに対するものか、今のアキラは怒りといら立ちで隙だらけなのだ。
そんなアキラに、社は次第に怒りを覚えた。
いや、本当に腹立しかったのは自分に対してだった。
強く望めばもしかしたらアキラは今夜このまま自分を受け入れるかもしれない。
アキラの精神状態はそういう危うい場所に今ある。本人にその自覚があるかどうかはわからないが、
社にはそれがわかった。わかっていて手を出すのは卑怯者だ。
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