誘惑 第三部 15 - 16
(15)
ヒカルの身体を、体温を、確かめるように抱きしめながら、アキラが言った。
「…ずっと、キミに触れたかった。
会いたくて、会いたくて、会えない時もずっとキミの事ばかり考えてた。
だからさっき、キミの家で、キミを見て、」
そこまで言うと言葉を切って、もう一度ヒカルにキスした。
「キミのお母さんがそこにいるのに、キミを抱きしめて、キスしたくて、たまらなかった。」
「オレもだ。」
「キミがボクの事を怒ってるだろうと思って、もうボクを嫌いになったかもしれないと思って、恐くて、
でも、それでもキミが欲しくて、キミに触れたくて、どうしようもなかった。でも…」
「そうすれば良かったんだ。そうしたらすぐにわかったのに。
こうして抱き合えば、すぐにわかる事だったのに。」
「…さすがに、キミのお母さんの目の前では出来ないよ。ボクにも自制心ってもんがある。」
アキラが小さく笑いながら、言った。
「自制心なんてクソ食らえ。」
ヒカルが小さく吐き捨てるように言った。
「どうせ、いつかはバレるんだ。それが今日か、明日か、明後日か、ずっと先か、
それだけの違いだ。」
「進藤…」
「だって、オレはおまえ以外なんて考えられない。おまえが好きだ。ずっと好きだ。
誰よりも、いつまでも、ずっとずっと、おまえが好きだ。
オレの一番大事な気持ちだ。それを人にどうこうなんて言わせない。」
そう言って、もう一度唇を重ね合わせた。
(16)
唇だけじゃ、足りない。
抱き合っているだけじゃ、足りない。
もっと深く、もっと近くに、触れ合いたい。もう一度、塔矢の全部を知りたい。知り尽くしたい。
ヒカルの手がアキラの身体を探る。
「待って…、待って、進藤、」
「塔矢、」
「ここじゃ、駄目だ。」
「イヤだ。待てない。」
「駄目だ、進藤…!」
ヒカルの手を拒もうとするアキラを、抗議を込めて見つめた。
どうして。どうしてここでやめるなんて出来るんだ。今すぐにおまえが欲しいのに。
けれど、アキラはヒカルを見つめながら言う。
「こんなとこじゃイヤだ。こんなとこで、人目を盗んで、声を殺して抱き合うのなんてイヤだ。
誰か来ないかとか、見つかったらどうしようとか、そんな事考えながら抱き合うのなんてイヤだ。
もっと、もっともっと、キミと一つになって、余計な事なんか気にしないで、他の事なんか忘れるくらい
抱き合いたい。だから、」
アキラがヒカルの両肩を掴んで、真っ直ぐに見つめて請う。
「進藤、ボクの部屋へ。もう一度。」
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