敗着-透硅砂- 15 - 16
(15)
(何が入ってるんだろう…)
適当に選んだ引出しを大きく引いた。すると、半分に折られた大きめの茶封筒が奥に入っているのが見えた。
(―――?)
取り出して中を開いて見ると、大量の写真が束になって保管されている。
一瞬、どうしようかと考えたが、そろそろとその束を取り出してみた。その一番上の写真に息が止まりそうになった。
そこには、アキラと緒方が二人で映っていた。
(塔矢…!と、緒方先生……。)
心臓が一気に高鳴った。
慌てて次の写真をめくって見た。和室に数人の男性が映っている。一人は緒方だった。
(これは…先生……若い……あ、塔矢のオヤジじゃん、これ…今とあんま変わんねーな……。もう一人は……。見たことある。塔矢門下の人だ……)
次の写真をめくった。
(車……。先生のかな…。今のと色が違う…)
バラバラとめくってみたが、一番最初の写真を上に置いた。
日の当たる植え込みの木の前で、アキラが屈託の無い表情で無邪気に笑っている。
艶々と輝いている黒髪からも、天気の良い日に撮ったことが分かる。その笑顔は安心しきっていた。
二人とも胸から上しか映っていないが、アキラの隣にいる緒方も、穏やかな表情をしていた。
その手はアキラの肩を抱いていた。
胸を締め付けるような感覚が徐々に襲ってきた。
背の高さを考えると、アキラが台か何かの上に乗っているようだった。
(なんだよ……アイツ…、笑うとすっげーかわいいじゃん……。……昔はよく笑ったのかな……)
眼鏡をかけずに、眩しそうに目を細めている緒方の顔を見つめた。
(この二人……仲…良かったんだな……)
それ以上は考えたくなかった。
二人の写真から目を逸らすと、乱れた写真の束の端を床で整え、封筒に入れ二つ折りにした。
雑多に物が入れられている引き出しの奥へ苛々としながらねじ込もうとする。
(ヤバイ、ぐちゃぐちゃになった)
それでもガタガタと引き出しを閉め、大きなため息をついた。
ごろんと床に寝そべると大の字に手足を伸ばす。変哲の無い白い天井が広がっていた。
(塔矢と――仲良かったんじゃん、先生――)
次第に気分がざわついてきた。
写真の中の二人の笑顔が脳裏に焼き付いていた。
(16)
(遅くならないって言ったのに、遅いよ…)
ソファに寝転がって、何をするでもなく天井を眺めていた。
玄関の扉が開く音がした。
(帰ってきた――!)
飛び跳ねるように体を起こし、急いで玄関へ向かう。写真を見たせいで、緒方がとても遠い存在になったような気がしていた。
「…あー…」
帰ってきた緒方の顔を見てうな垂れそうになった。目が据わっていたのだ。
「飲んでるの…?」
靴を脱ぐ足元が少しふらついている。
「成り行きで…呼ばれてな……」
半分寝ているかのような口振りで、ふらふらと部屋に入っていく。その後ろについていって声をかけた。
「水、くんでこようか?」
「いや、いい。自分でする」
台所へ行くと棚からコップを出し、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し注ぐと一気に飲み干した。
そして居間へと入っていった。
どさりとソファに座り込むと、長々と脚を伸ばしている。その前に立って、目を閉じている緒方の顔をじっと見つめた。
緒方はそれには気づかず大きな欠伸を一つすると、上着に手をかける。
「あ、待って。脱がないで」
「――?」
手を止めて不思議そうにこちらを見た。
「見慣れてないから。格好いいよ、それ。着といてよ」
一瞬きょとんとした顔をしていたが、やがて嬉しそうに目を細めると
「コノヤロウ」
と言って指で額を突ついてきた。
「ヤクザじゃなかったのか?」
きちんと座り直して膝の上に腕を乗せると、両手を軽く繋いで笑いながら訊いてきた。
「うん、政治家とか会社の偉い人が悪いことしてテレビに映ってる時、一緒にいる人みたい」
「あのな」
顔をくしゃくしゃにして笑ったが、真顔に戻ると静かに見つめてきた。
レンズ越しの淡い色のその瞳を、捉えられたように見つめ返した。
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