落日 15 - 16
(15)
それとも。
ズッと胸の底で何かが蠢くのを感じる。
あのように乱暴に、強引に、彼を抱くのか。抱いたのか。
このか弱く儚い存在を、無力さをよいことに、踏み躙ったのか。
いや、きっとそうに違いない。
嫌だと拒む声を無視して、逃げる力もない彼を強引に捉えて、その身体を引き裂いたのか。
悲しみに付け込んで彼をいいように扱ったのか。
ありえない事ではない、と伊角は思う。
彼はいつもそうだ。
抑えるべき時と所でも、己を抑えるということをしない。
素直で正直とも言えるような彼の直情さは、ある意味、彼の美点でもあり、動くよりも先にまず考え
込んでしまう自分は、時としてそれを羨んだこともあった。だが彼との事を考えると、自分の想像も
あながち誤っていないのではないかと思う。
その証に、彼は先程も、こんなにも怯えている少年に掴みかからんばかりではなかったか。
許せない。
あのように乱暴に彼の身体を扱ったのか。歯向かう力さえ持たぬこのか弱い存在を、力任せに強引
に犯したのか。
目に浮かぶようだ。
友人の優しさを信じて無邪気に儚げに笑う少年に、その笑顔に邪まな情欲を燃やされて、欲望のまま
に少年の身体を押し倒す、かつては親しかった友人の姿が。
暗い妄想に、目の底がぎらりと光った事に、伊角は気付いていない。
湧き上がる熱を、彼は怒りと解釈した。
親しい友人だと思っていた人間が、か弱く儚げな少年を強引に犯している。
怒りを滾らせながら、彼はその妄想に浸った。
(16)
彼らは親しげに会話を交わしている。
けれど、ふと会話が途絶えると、少年は目の前の友人でなく、どこか遠くを見ている。
視線を引き戻すように肩を掴んでこちらを向かせる。
視線が絡み合う。
けれど少年は目の前の友人ではなく、彼を通り越して逝ってしまった想い人の姿を探す。
自分を見ない少年に怒りがこみ上げる。
けれど、手にした肩の細さに、虚ろな大きな瞳に、儚げなその姿に、怒りと共に別の感情がひたひたと
胸に寄せてくる。それは無理矢理にでもこの目を己に向かせようという強烈な情念だ。
虚ろに中空に視線を投げやっていた少年は、突如、目の前の友人の暗い欲望に気付き、そこから逃げ
ようと身体を浮かす。その腕を掴んで引きとめると、彼の身体が横倒しに床に倒れる。
そのまま逃げようとする身体を後ろから掴まえる。
「嫌だ、やめて!」
拒む言葉など耳にも留めず、身体を押さえつけ、衣を引き裂く。
あらわにされた白い背に、ぞくりと震えを感じる。
暴れる身体をものともせず身に纏っていたものを全て剥ぎ取り、仰向けに四肢を押さえつける。
「どうして……」
彼は、信じられない、と言った目でこちらを見ている。
怯えの混じった眼差しに、情欲を煽られる。
逃がしはしない。
騙されるものか。
何も知らぬ、稚い子供のような顔をして、無力な子供が助けを求めるようなふりをして、男を誘う。
そうやって幾人の男を己の闇に引き摺りこんできたのだ。
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