闇の傀儡師 15 - 17


(15)
体に残った訳の判らない痕を目にしていると吐き気が起こってきた。
ヒカルはフラフラと階下に下りてバスルームに入り、シャワーを浴びる。
紐の痕と髪に残るバラの香りを消したかった。
だが皮膚に刻まれた模様は熱いお湯に反応して一時的に一層赤みを増し、膨れ上がって
くっきりと立体的にどのように体に縄が掛かっていたかを詳細に示す。
あの人形がされていたものと同じ模様だった。
ヒカルは自分の体を両手で抱えるようにしてその場にしゃがみこんだ。
『…少しずつシンクロ率が高まって来たようだね。』
男の声が蘇り、ハッと顔をあげる。シンクロしている?あの人形に…!?

バスルームを出るとまだ早朝にもかかわらず母親が台所に立つ気配がし、ヒカルは慌てて
腰に巻き付けたバスタオルともう一枚バスタオルで上半身をしっかりくるんだ。
「あら、珍しいわね、ヒカル。夕べも言った通り冷蔵庫にいろいろ置いていくから
ちゃんと食べなさいね。」
「えっ?」
何の事?と言いたげなヒカルの視線に母親が呆れたように振り向く。
「だからお友達と旅行に出かけるって言ったでしょ。お父さんの出張先にも寄るから
帰りは明後日になるって。御留守番頼むわよ。」
玄関先の廊下には既に母親の旅行鞄が用意されている。
ヒカルは呆然となった。今この家に一人になることは嫌だった。


(16)
「じいちゃん…じいちゃんに来てもらっていいかな。」
「お義父さんも老人会の旅行ですって。どうしたの?ヒカル。具合でも悪いの?」
「う、ううん、何でもない…。」
ヒカルは力のない足取りで二階の自分の部屋に戻った。
よくわからなかったが、あの夢をこれ以上何度も見たら、そのうちもう戻って来れないような、
自分がどうにかなってしまうようなそんな気がしたのだ。
だからといって何処に逃げればいいのか、どうしたらいいのかヒカルにはわからなかった。
その時母親が玄関から出て行く音がして慌ててヒカルは別のジャージに着替えて下に降り、
外に出たがもう母親の姿はどこにもなかった。
「…塔矢に、相談してみよう…。とりあえずオレも出かける用意しなくちゃ…」
ため息をついて家の中へ引き返そうとしたヒカルの目に、郵便受けの取り出し口部分の
隙間から何かが飛び出しているのが見えた。
息を飲んで手を伸ばし、取り出し口を開いた。
そこには例の写真が剥き出しのまま何枚も入っていて、ヒカルの足下にバササッと落ちた。
今まで見た事があるもの、紐で新たにいろんなポーズで縛られているもの、人形の足が大きく
広げられて縛られ、その中心に何か異物を体内に押し込められているもの、であった。

ヒカルがその日の予定の仕事を休んだと言う事をアキラは棋院会館で知った。
急きょヒカルの代役になった和谷が夕方からの棋院会館での研究会に参加する際にその事を
仲間らに話すのを聞いたのだ。和谷もヒカルの家に電話をしたのだが、誰も出ないらしい。
「進藤…?」
アキラは強い胸騒ぎをおぼえた。


(17)
アキラはとりあえずヒカルの家を訪ねる事にした。自分に何の連絡もなかった事で
それだけ事態が急速に悪化したのではと感じた。
ヒカルの身に何かあったのかもしれない。
夜にさしかかった他に人影の見えない住宅街を行くと前方にヒカルの家が見えた。
その時アキラは、ヒカルの家の周囲を伺う者がいるのに気付いた。
「?」
直ぐに違和感を感じたアキラは相手に悟られないよう近付き、様子を見ていた。
帽子を目深に被った黒い服の男が、胸ポケットから取り出した何かを直接郵便受けに
差し入れるところだった。
それを見て切手を貼った消印の無い手紙、がアキラの頭の中をよぎった。
「おい、何をしている!」
夢中でそう叫んで駆け寄ると、相手も驚いて逃げ出した。
「待て!!」
アキラは殆ど飛びつくようにしてその男の腕を掴み、もつれあうようにして道路に倒れ込んだ。
「変な手紙をよこしたのはお前か!?」
相手の襟首を掴んで締め上げようとしたアキラの視界に入って来たのは、
首のないジャージの胸元だった。
「えっ…?」
そこにあるはずの首から上は、乾いた音を立てて道路に転がっていた。帽子を被ったその首は、
マネキン人形のものだったのだ。
アキラが道路に組み伏せた体もまた、硬直したマネキンに服を着せただけのものだった。



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