天涯硝子 15 - 17

(15)
ヒカルはそっと冴木の顔の輪郭をたどり、指先でもその唇に触れた。ついばむような口付けから徐々に深く熱い口付けに変わっても、ヒカルは重なり合った唇を指で触れていた。
ふいに唇が離れ、冴木がヒカルの指を食む。
指先からも痺れるような心地よさが広がる。冴木はゆっくりとヒカルの指を舐めた。
「……」
指先が濡れて行くのを、ヒカルは夢心地に見た。冴木の赤い舌と、濡れて光る指先がなまめかしい。
次第にもっと何か強い刺激が欲しくなって、ヒカルはその手を冴木の唇から離し、冴木の下腹へと持って行った。
「ダメだって…」
冴木は眉根を寄せ、苦しそうに言った。そして「シャワー浴びて来いよ」と言うと、
起き上がり、ヒカルに背を向けて、そのままになっていた碁盤の碁石を片付け始めた。
「…一緒に入る？」
ヒカルは横になったまま尋ねた。
「いや、…」
そっけなく答える冴木に、ヒカルは寂しさを感じながら起き上がり、そっと冴木の隣りに座って寄り添った。上目遣いに表情を見ると、冴木はどことなく怖い顔をしている。
「何で？入ろうよ」
「もうさ、乱暴なことしたくないんだよ。…体格の差も、力の差もあるだろ？俺とおまえは。
俺は力づくでおまえをどうとでも出来るんだ。…この前みたいに一方的なのは、いやだろ？」
あの時は怖かったけれど、それは初めてだったからで、冴木が一方的に自分を抱いたからではないとヒカルは思っていた。しかし、冴木は自分に乱暴に接したと後ろめたさを感じているようだった。
「おまえに優しくしたいんだよ」
そっと体重をヒカルの方に掛け返しながら、冴木は言った。
ヒカルは寄り添った冴木の身体から微かに汗のにおいを感じながら、冴木のやさしさを思い、
冴木の腕に顔を押し付けるようにして、うなづいた。

ヒカルがシャワーを浴びて出てくると、入れ替わりに冴木がバスルームに入った。
部屋は窓が閉められ、エアコンが入っている。この前は窓を開けて寝ていたことを思い出した。
バスタオルでごしごしと髪を拭きながら、ヒカルはベッドに入り込む。バスルームから聞こえてくるシャワーの水音。…これから冴木さんとするんだよな。そう思うと、胸がつまるような感じがした。
自分の心音が耳に響く。少し前に冴木にとキスした時は妙に冷静だったのに、ひとりでここにいると
怖くなり、逃げ出したい気持ちになる。あのまま冴木がヒカルの服を脱がし、乱暴にことを進められていたら泣き出したかもしれない。優しくしたいと掛けてくれた冴木の言葉が、今はありがたかった。
シャワーの音がやみ、冴木が出てきた。ヒカルは背中を向けたまま俯き、近づいてくる冴木の気配を感じていた。ベッドが揺れ、冴木がそっと後ろからヒカルを抱きしめた。その身体はまだ濡れていて、
ひんやりしている。ヒカルは自分の方がよほど熱くなっている気がして恥ずかしくなった。
冴木はさらにヒカルの身体を抱きこみ、口付けしようとヒカルの顔を自分の方に向けさせた。
ヒカルはそうされて身体をねじり、向きを変えてしっかりと自分から冴木に抱きついた。
冴木は足をひろげ、ヒカルの身体を引き寄せ抱き込んだ。
ヒカルの細い身体の内を、呼吸する息が通っていることがよくわかる。
ヒカルのことが堪らなく愛しい。

(16)

冴木はヒカルを抱き、座ったままゆっくりとヒカルの下腹で張り詰め、脈打っている可愛いモノを撫でた。ヒカルが顔を冴木の肩口に埋める。大人しくされるままでいるヒカルの吐息は次第に荒くなり、
冴木がぬめりに手を濡らして強く擦りあげると、重く甘い快感がヒカルの腹の中いっぱいに広がった。
もっと…、もっとして欲しい。早く、出したい…。ヒカルは冴木の首にしがみつき、身体をくねらせた。
「…あ、…ぁあ…は…」
冴木は耳元で切なそうにこぼれるヒカルの喘ぎ声の中の、艶めいた響きに魅せられたように夢中にな
ってヒカルのモノを嬲った。自分の手の動きにヒカルが感じている…。そう思うと自分も昂ぶった。ヒカルの体がついには硬直し、小さな悲鳴を上げながら大きく何度も震えた。
「…う、……あ、あっ!!」
しがみつくヒカルが冴木に爪を立てる。その痛みさえ、冴木には甘く感じられた。
ヒカルの吐いた精で冴木の手が濡れているのをヒカルは見つけ、困ったような顔をした。
「……ん、ごめんなさい…」
頬を紅く染め、眉根を寄せてヒカルが言う。
冴木がヒカルの身体を抱きかかえたままタオルで手を拭い、ヒカルの身体を拭いていると、そっと
ヒカルの手が冴木の熱くなっているモノに触れた。
冴木の先端からは、雫が流れ出ていてヒカルの手のひらをすぐに濡らした。亀頭をたどたどしくヒカルの指が擦る。
「冴木さんも…」
ヒカルは瞳を潤ませながら冴木を見上げる。ぬるぬると指を滑らせ、両の手のひらいっぱいの冴木の
モノの、亀頭とカリとを指の腹で引っ掛けるようにして刺激した。今度は冴木がヒカルにされるまま
になった。
自分を包み込むように抱く、冴木の息遣いが荒れてくるのがわかる。
「……ん…」
声を押し殺している冴木の鎖骨をヒカルが噛むと、冴木はヒカルに枝垂れかかるようにして体重を掛
け、ヒカルを押し倒した。
ヒカルの両腕を掴み身体の左右に押さえつけ、足でヒカルの両足を割る。ヒカルは身体をこわばらせ
はしたものの、抗わずに開かれた足のふくらはぎを冴木の足に沿わせた。
冴木は腕を折ってヒカルの上に覆い被さり、首に、胸にと口付ける。ヒカルが薄く開けた唇の隙から
赤い舌を光らせて冴木を誘うと、冴木は唇をぶつけるようにして口付けてきた。
ヒカルは冴木の身体を抱きしめ、冴木の舌を吸った。溢れ出た唾液がヒカルの頬を伝い、耳の下を濡
らす。冴木はそれを舐めながら、ヒカルの身体の下、背中に手を差し入れてヒカルの身体を浮かせ、
ヒカルの喉を反らせた。唇を滑らし、舌を這わせる。ヒカルが肩はすぼめ、ビクビクと身体を震わせ
る。ぐいと冴木がヒカルの股間に自分のモノを押し付けた。
「あ、…ぁん…」
腰をまわされた手で押さえられ、身体をぴったりと合わせたまま、冴木はヒカルと身体を入れ替えた。ヒカルは冴木の上になり、一度身体を起こそうとしたが冴木に頭を捕らえられ、再び冴木の肩に金色
の前髪を散らした。
「…どうすればいい…？」
ヒカルは冴木の肩に手を置き、冴木の腹に跨ると下になった冴木の顔を覗き込む様にして尋ねた。

(17)
冴木の上にヒカルの影が、少し斜めに落ちている。それを見て、灯りを消していないんだとヒカルは思った。
普段、何気に裸を見られても特別恥ずかしいとは思わないが、こんな時に明るいと、自分の表情も相手の顔
も見えて恥ずかしく思えた。
「ここに入れたい…」
冴木が両手でヒカルの薄い肉づきの双丘を割り、後ろの秘門の入り口を指でつつくのに、
ヒカルは膝をついて腰を浮かし、前から股下に手を入れて冴木のモノを掴んだ。
固定するように手を添えたまま腰を下ろし、秘門に先端を押し当てる。
「無理だろ？」
冴木は笑ってヒカルを引き倒し、軽々とヒカルと身体を入れ替えるとヒカルの両膝を掴んで足を開かせた。
あらわになった内腿の奥に、冴木が舌を出して顔を近づけて行くのをヒカルが薄く瞼を開けて目で追うと、
冴木がチラッと上目遣いにヒカルを見た。視線が一瞬合い、離れた。ひんやりと冷たい舌がヒカルの秘門を
濡らす。冷たかったのは最初だけで、すぐに暖かくうごめく舌の感触にヒカルは意識を集中させた。
ヒカル自身でさえその目で見たことのない部分を冴木に見られ、舐められている。内腿のやわらかな白い肌
も、秘門の周りのうす赤いところも。ヒカルの身体が羞恥にほの赤く染まると、さらにそこの色が濃
くなったように見えた。それでも指で秘門を押し広げられるようにされ、濡れた舌を秘門に抜き差しされる
ころには自分で膝下に手を入れて足を開いていた。
「は、ぁんっ！」
不意に冴木がヒカルのペニスを口に含んだ。竿を舌が動きながら包み、先端を喉の奥で吸われてヒカルの身
体がビクビクと何度も跳ねあがる。ぞくぞくと快感がヒカルの背中を走り、腰が甘く重くベッドに沈んでい
くようだった。
ヒカルが達しようとした時、冴木はタイミングを計ったようにヒカルを口から放り出した。
「…あ、ぁぁ…」
ヒカルが懇願するように冴木を見た。瞳に涙をため、今にも零れそうだ。
「少し待ってろ…」
冴木はヒカルの頭の上に手を伸ばし、枕元を探るとガラスの瓶を掴み出した。
何かのクリームのようなそれを指にたっぷりと取り、それをヒカルの秘門の入り口に塗って行く。
もうひとすくい採ったそれを自分のペニスにも塗ると、ヒカルの腰を抱え上げ、足首を持って身体を折り曲
げさせから、ヒカルの中にゆっくりと入っていった。
少しづつ押し入ってくる冴木のモノに身体を引き裂かれていくような痛みに、ヒカルは小さな悲鳴を上げ続
けた。逆立ちをしているような息苦しさに喘ぎ、ヒカルは首を振りながら冴木をすべて飲み込む。
「…は、…ぁあ、あ…」
しばらくして冴木が声を絞り出すように言った。
「…入ったよ」
腹の中に埋め込まれた大きなモノの圧迫感に、息が詰まる。ヒカルは眉根を寄せながら、冴木の声に目をあけ、
真上にある冴木の顔を見た。目を細め、ヒカルを見つめる冴木を見て、意識したわけではなかったが、冴木を思わず
締めつけた。
「…ん、きついよ、進藤。…力を抜いて…動けない」
身体は痛みに震えてもいる。わざとしているつもりは勿論ない。
力をぬくって、どうやって？　ヒカルは大きく息をしながら考えた。もう一度冴木は、身体から力を抜くように言った。
ヒカルは目を閉じ、下腹に逆に力を入れるようにして、大きく息を吐き出した。
「……そう、それでいい…」
冴木にそう言われたものの、自分では、身体から力が抜けたのかどうか全くわからない。
冴木がゆっくりとヒカルの中で動き出した。