初めての体験 Asid 芦原(2)
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しかし、彼はボクの手に持っている物を見て、真っ青になり這って逃げようとした。
何でも訊くと言ったくせに…。もっとも、本人は逃げているつもりだろうが、力が
入らないためか、最初の場所から三十センチと移動できていない。
ボクは、後ろから彼をしっかりと捕まえ、自分の方へ引き寄せると耳元で優しく囁いた。
「大丈夫ですよ…何度も練習したんですから…人間相手は初めてだけど…」
耳を軽く噛んで、胸元に手を這わせた。芦原さんの身体がビクッと震えた。それだけでもう、
切なげな吐息が、口から漏れた。うん?可愛いじゃないか……。ボクは、唇と舌で彼の
首筋を愛撫しながら、胸の辺りを彷徨わせていた手を徐々に下ろした。
「はぅ…!」
芦原さんの身体が小刻みに震える。ボクが、芦原さん自身を弄び始めると、喉を仰け反らせて
悶えた。
「ああ…アキラぁ…」
もう完全に、身体をボクに預けている。芦原さんの息遣いが、密着した部分から伝わってくる。
ボクは、もう片方の手に持っていた物を、芦原さんの目の前にかざした。それを
両の手に持って撓らせる。パシ、パシと小気味いい音がした。どんな顔をして、それを
見ているのだろうか―――――怯えていることだけは、はっきりわかる。
「じっとしてください…」
後ろから抱きしめるように、手を交差させていく。
「あ…あ…やめ…」
怯えた拒絶の言葉とは裏腹に、芦原さんの表情は、少しずつ陶酔に彩られていく。
薬もよく効いているらしい。いい感じだ。
ボクはまだ初心者だし、最初は簡単なヤツにしておこう。記憶を頼りに、手に持った物を
交差させ、くぐらせる。所々で玉を作り、強弱をつけ、形を作っていった。最後に
キュッと絞り上げる。
ボクは、芦原さんの姿を、改めてじっくり見た。初めてにしては、なかなかの出来では
ないだろうか?ああ、興奮する。これが進藤だったら、ボクは鼻血を噴いて昏倒して
しまうだろう……やはり、経験を積んでから、本命に挑むべきだな。うん。
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ボクは、自分の指を丹念にしゃぶった。そして、十分に湿した後、その手を芦原さんの
後ろに回した。尻の割れ目に沿って、ゆっくりと這わせる。彼はその意図に気がついて、
一転、抵抗を始めた。だが、ボクは気にせず、行為を続行した。
だって、どのみちボクは途中で止めるつもりはないし、こうしておかないと痛いのは、
芦原さんなんだから。大サービスだよ。彼の中に指を沈めた。
「あああぁぁ!いやだぁ!」
芦原さんは、ボクから逃れようと身体を捩らせ、前に倒れてしまった。ボクの目の前に、
芦原さんのすべてが晒される格好になってしまっている。ますます、好都合。
「はぁあ!やめてくれ…あぁ……はぁん…あん…」
ボクの執拗な指の動きに、芦原さんは陥落寸前だ。もう、十分だろう。ボクは、芦原さんに
自分自身を押し当てた。
「……!ア…アキラ…?」
怯えた声が耳に届いたが、無視した。ボクは、そのまま躊躇うことなく、前に進んだ。
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芦原さんの唇から、声にならない悲鳴が発せられた。ゴメン。でも、気持ちいいよ。
ボクが動く度、悲鳴が上がり、芦原さんが身体を硬直させる。そして、彼のその所為は
ボクを心地よく締め付ける。ボクは、彼によって与えられる刺激が欲しくてますます
激しく動く―――の繰り返しだ。
後ろ手に縛り上げられたまま、芦原さんは、顔を畳に押しつけ呻いている。その顔を
見た瞬間、背中を快感が走り抜けた。
一気に達してしまいそうになった――――――が、辛うじて持ちこたえた。ここで、
イッてしまったらボクの負けだ。こんなことでは、進藤の相手はできない。進藤は、
もっとスゴイはずだ。だって、S因子を発動できない今でさえ、あんなに……あんな……
ああ!まずい!想像したら余計に…!
とりあえず、気を紛らわせるため、頭の中で棋譜を並べてみる。………………何とか
落ち着いてきた。ホッと息をつく。
……だが……おかしい…なんだか、ガマン大会のようだ。これが進藤との未来への
第一歩なのだろうか?だとすると……達人への道は、厳しく険しいモノなんだな……。
しみじみと思った。
「ああ…んん…あきらぁ…!」
芦原さんの声が、ボクを現実に引き戻した。先ほどとは、うって変わって、声に艶を帯びている。
瞳を潤ませ、口を大きく開け喘いでいた。そこから幾筋も唾液が流れ、畳に染みを作っていた。
勝った!!!
「あぁ―――――!」
ボクが大きく突き上げると、芦原さんは一声叫んで、畳の上に崩れ落ちた。
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「塔矢、なんか良いことあった?」
ボクの腕の中で、進藤が小首を傾げて問いかける。「ああ、あったよ」とは、進藤には、
言えない。ボクは、返事をする代わりに進藤の胸の突起にキスをした。
「あん…!」
そのまま、口に含み強く弱く吸い続けた。
「や…やだ…あぁん…」
ボクの腕から逃れようと、進藤は背中を反らせた。でも、ボクは離さない。腕に力を込め、
しつこくそこを嬲った。進藤の黒子一つない肌に、痣をつけながら、ボクは芦原さんへの
行為を思い出していた。ああ…この…この肌に…!白い縄を巻き付けたい!ボクは、夢中で
進藤にむしゃぶりついた。
「あ…い…いたいよ…」
しまった。興奮しすぎた。謝罪の意味も込めて、優しく進藤の額にキスをした。そして、
瞼、頬と順々にキスをする。
「塔矢ぁ…」
進藤が甘えるように、ボクにしがみつく。ボクは、進藤が望むように彼の唇にキスをした。
可愛い。こんなに可愛い進藤を縛りたいと思うなんて…どう考えてもボクは終わっている。
でも、どうしてもしたいんだ。ガマンできないんだよ!!縛ったり、叩いたり…それから
……他にもいろいろ…
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突然、進藤がボクを突き飛ばした。
「進藤?」
震えている?どうして?ボクは、進藤の顔を覗き込んだ。
「オマエ、今、何考えてたんだよ?」
そっぽを向いたまま、進藤が訊いてきた。えぇ…?
「別に…キミのことだよ…」
ボクは、優しく笑いかけた。本当のことは言えないよね。
進藤は、ボクの顔をじぃっと見つめてきっぱり言った。
「ウソだ!」
ウソじゃないよ。まあ…よからぬことも考えていたけど…。
「だって…オマエ…目が笑ってネエんだもん…怖ェよ…」
進藤は、枕に顔を伏せてしまった。しまった。顔に出てしまったか…!修行が足りないのか…!?
それにしても、進藤も結構、勘がいいんだな。
「ごめん…今度の対局のこと考えていたんだよ…」
ウソも方便だ。進藤は顔を上げて、ボクを見た。目にいっぱい涙を溜めて、怒っている。
「…オレもその気持ちわかる…でも…オレと一緒の時は、オレのことだけ見てくれなきゃ
イヤだ……!」
そう言うと、また、顔を伏せてしまった。滅茶苦茶可愛い!このまま、地下室に監禁して
しまいたい!地下室なんてないけど……
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ボクは、進藤の背中に覆い被さった。
「や…やめろよ…あぁん…」
前に回した手で、抵抗する彼の股間に触れると、そこは熱くなっていた。
「なんだ…進藤もしたいんじゃないか…」
「や…ちが…」
進藤の呼吸が荒くなり始めた。
ボクは、彼の前を弄りながら、同時に後ろも嬲った。そこは、先ほどまでボク自身が
いた場所なので、簡単にボクの指の侵入を許した。
「あ…んん…と…やぁ…」
ボクの指の動きに合わせて、進藤の腰が揺れる。扇情的だ。彼の頭を押さえ付け、
無理やり貫きたい気持ちをぐっと堪えた。ガマンだ。ボクは、彼の腰を優しく引き寄せると、
自分をそっと宛った。
「入れるよ?」
進藤が、小さく頷いた。ボクは進藤の腰を固定すると、ゆっくりと自分自身を突き入れた。
「アアァ――――――ッ」
ボクが腰を進める度に、進藤は小さく喘いだ。最初は静かに、徐々に激しく抽挿を繰り返す。
「あ、あ、あぁ…ん…ン、ンッ、ンン……アアッ」
快感に耐えきれず、進藤の身体が前に崩れた。枕に顔を押しつけて、喘ぐ様があの時の
芦原さんと重なった。やった……!
進藤の身体に巻かれた白いロープ…縛られた両腕……戦慄にも似た快感が全身を駆け抜けた。
ああ…ゾクゾクする。ボクは、一気に膨れ上がった。
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『ありがとう!芦原さん!』ボクは心の中で感謝した。
ボクのやっていることは、歪んだイメトレじみているけど、それでも、ボクにとっては
必要なことなんだ。進藤を傷つけないためにも…!
この調子でどんどん技術を向上させ、いつかは進藤と……そのためには、次の練習台を
見つけなければ…よぉし!明日も頑張って捜すぞ!
そう決心すると、ボクは闘志を燃え上がらせるかのように、激しく進藤を突き上げた。
「あぁん!とぉやぁ!」
進藤がボクを締め付けた。あぁ!気持ちイイ…!ボクは、自分を解放した。
今日のボクは、至極充実している。腕の中の進藤も、満ち足りた表情で眠っている。
ボクの満足が進藤の満足へと繋がる。やはり、ボクは精進に精進を重ねて行くしかない。
ああ、もうこんな時間か。明日も早い。進藤を自分の胸の方に抱き寄せると、ボクも
眠りについた。
おわり
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