初めての体験 Asid 芦原(2)


(15)
 しかし、彼はボクの手に持っている物を見て、真っ青になり這って逃げようとした。
何でも訊くと言ったくせに…。もっとも、本人は逃げているつもりだろうが、力が
入らないためか、最初の場所から三十センチと移動できていない。
 ボクは、後ろから彼をしっかりと捕まえ、自分の方へ引き寄せると耳元で優しく囁いた。
「大丈夫ですよ…何度も練習したんですから…人間相手は初めてだけど…」
耳を軽く噛んで、胸元に手を這わせた。芦原さんの身体がビクッと震えた。それだけでもう、
切なげな吐息が、口から漏れた。うん?可愛いじゃないか……。ボクは、唇と舌で彼の
首筋を愛撫しながら、胸の辺りを彷徨わせていた手を徐々に下ろした。
「はぅ…!」
芦原さんの身体が小刻みに震える。ボクが、芦原さん自身を弄び始めると、喉を仰け反らせて
悶えた。
「ああ…アキラぁ…」
もう完全に、身体をボクに預けている。芦原さんの息遣いが、密着した部分から伝わってくる。
 ボクは、もう片方の手に持っていた物を、芦原さんの目の前にかざした。それを
両の手に持って撓らせる。パシ、パシと小気味いい音がした。どんな顔をして、それを
見ているのだろうか―――――怯えていることだけは、はっきりわかる。
「じっとしてください…」
後ろから抱きしめるように、手を交差させていく。
「あ…あ…やめ…」
怯えた拒絶の言葉とは裏腹に、芦原さんの表情は、少しずつ陶酔に彩られていく。
薬もよく効いているらしい。いい感じだ。
 ボクはまだ初心者だし、最初は簡単なヤツにしておこう。記憶を頼りに、手に持った物を
交差させ、くぐらせる。所々で玉を作り、強弱をつけ、形を作っていった。最後に
キュッと絞り上げる。
 ボクは、芦原さんの姿を、改めてじっくり見た。初めてにしては、なかなかの出来では
ないだろうか?ああ、興奮する。これが進藤だったら、ボクは鼻血を噴いて昏倒して
しまうだろう……やはり、経験を積んでから、本命に挑むべきだな。うん。


(16)
 ボクは、自分の指を丹念にしゃぶった。そして、十分に湿した後、その手を芦原さんの
後ろに回した。尻の割れ目に沿って、ゆっくりと這わせる。彼はその意図に気がついて、
一転、抵抗を始めた。だが、ボクは気にせず、行為を続行した。
 だって、どのみちボクは途中で止めるつもりはないし、こうしておかないと痛いのは、
芦原さんなんだから。大サービスだよ。彼の中に指を沈めた。
「あああぁぁ!いやだぁ!」
芦原さんは、ボクから逃れようと身体を捩らせ、前に倒れてしまった。ボクの目の前に、
芦原さんのすべてが晒される格好になってしまっている。ますます、好都合。

 「はぁあ!やめてくれ…あぁ……はぁん…あん…」
ボクの執拗な指の動きに、芦原さんは陥落寸前だ。もう、十分だろう。ボクは、芦原さんに
自分自身を押し当てた。
「……!ア…アキラ…?」
怯えた声が耳に届いたが、無視した。ボクは、そのまま躊躇うことなく、前に進んだ。


(17)
 芦原さんの唇から、声にならない悲鳴が発せられた。ゴメン。でも、気持ちいいよ。
ボクが動く度、悲鳴が上がり、芦原さんが身体を硬直させる。そして、彼のその所為は
ボクを心地よく締め付ける。ボクは、彼によって与えられる刺激が欲しくてますます
激しく動く―――の繰り返しだ。
 後ろ手に縛り上げられたまま、芦原さんは、顔を畳に押しつけ呻いている。その顔を
見た瞬間、背中を快感が走り抜けた。
 一気に達してしまいそうになった――――――が、辛うじて持ちこたえた。ここで、
イッてしまったらボクの負けだ。こんなことでは、進藤の相手はできない。進藤は、
もっとスゴイはずだ。だって、S因子を発動できない今でさえ、あんなに……あんな……
ああ!まずい!想像したら余計に…!
 とりあえず、気を紛らわせるため、頭の中で棋譜を並べてみる。………………何とか
落ち着いてきた。ホッと息をつく。
 ……だが……おかしい…なんだか、ガマン大会のようだ。これが進藤との未来への
第一歩なのだろうか?だとすると……達人への道は、厳しく険しいモノなんだな……。
しみじみと思った。

 「ああ…んん…あきらぁ…!」
芦原さんの声が、ボクを現実に引き戻した。先ほどとは、うって変わって、声に艶を帯びている。
瞳を潤ませ、口を大きく開け喘いでいた。そこから幾筋も唾液が流れ、畳に染みを作っていた。
 勝った!!!
「あぁ―――――!」
ボクが大きく突き上げると、芦原さんは一声叫んで、畳の上に崩れ落ちた。


(18)
 「塔矢、なんか良いことあった?」
ボクの腕の中で、進藤が小首を傾げて問いかける。「ああ、あったよ」とは、進藤には、
言えない。ボクは、返事をする代わりに進藤の胸の突起にキスをした。
「あん…!」
そのまま、口に含み強く弱く吸い続けた。
「や…やだ…あぁん…」
ボクの腕から逃れようと、進藤は背中を反らせた。でも、ボクは離さない。腕に力を込め、
しつこくそこを嬲った。進藤の黒子一つない肌に、痣をつけながら、ボクは芦原さんへの
行為を思い出していた。ああ…この…この肌に…!白い縄を巻き付けたい!ボクは、夢中で
進藤にむしゃぶりついた。
「あ…い…いたいよ…」
しまった。興奮しすぎた。謝罪の意味も込めて、優しく進藤の額にキスをした。そして、
瞼、頬と順々にキスをする。
 「塔矢ぁ…」
進藤が甘えるように、ボクにしがみつく。ボクは、進藤が望むように彼の唇にキスをした。
可愛い。こんなに可愛い進藤を縛りたいと思うなんて…どう考えてもボクは終わっている。
でも、どうしてもしたいんだ。ガマンできないんだよ!!縛ったり、叩いたり…それから
……他にもいろいろ…


(19)
 突然、進藤がボクを突き飛ばした。
「進藤?」
震えている?どうして?ボクは、進藤の顔を覗き込んだ。
「オマエ、今、何考えてたんだよ?」
そっぽを向いたまま、進藤が訊いてきた。えぇ…?
「別に…キミのことだよ…」
ボクは、優しく笑いかけた。本当のことは言えないよね。
 進藤は、ボクの顔をじぃっと見つめてきっぱり言った。
「ウソだ!」
ウソじゃないよ。まあ…よからぬことも考えていたけど…。
「だって…オマエ…目が笑ってネエんだもん…怖ェよ…」
進藤は、枕に顔を伏せてしまった。しまった。顔に出てしまったか…!修行が足りないのか…!?
 それにしても、進藤も結構、勘がいいんだな。
「ごめん…今度の対局のこと考えていたんだよ…」
ウソも方便だ。進藤は顔を上げて、ボクを見た。目にいっぱい涙を溜めて、怒っている。
「…オレもその気持ちわかる…でも…オレと一緒の時は、オレのことだけ見てくれなきゃ
 イヤだ……!」
そう言うと、また、顔を伏せてしまった。滅茶苦茶可愛い!このまま、地下室に監禁して
しまいたい!地下室なんてないけど……


(20)
 ボクは、進藤の背中に覆い被さった。
「や…やめろよ…あぁん…」
前に回した手で、抵抗する彼の股間に触れると、そこは熱くなっていた。
「なんだ…進藤もしたいんじゃないか…」
「や…ちが…」
進藤の呼吸が荒くなり始めた。
 ボクは、彼の前を弄りながら、同時に後ろも嬲った。そこは、先ほどまでボク自身が
いた場所なので、簡単にボクの指の侵入を許した。
「あ…んん…と…やぁ…」
ボクの指の動きに合わせて、進藤の腰が揺れる。扇情的だ。彼の頭を押さえ付け、
無理やり貫きたい気持ちをぐっと堪えた。ガマンだ。ボクは、彼の腰を優しく引き寄せると、
自分をそっと宛った。
「入れるよ?」
進藤が、小さく頷いた。ボクは進藤の腰を固定すると、ゆっくりと自分自身を突き入れた。
「アアァ――――――ッ」
ボクが腰を進める度に、進藤は小さく喘いだ。最初は静かに、徐々に激しく抽挿を繰り返す。
「あ、あ、あぁ…ん…ン、ンッ、ンン……アアッ」
快感に耐えきれず、進藤の身体が前に崩れた。枕に顔を押しつけて、喘ぐ様があの時の
芦原さんと重なった。やった……!
 進藤の身体に巻かれた白いロープ…縛られた両腕……戦慄にも似た快感が全身を駆け抜けた。
ああ…ゾクゾクする。ボクは、一気に膨れ上がった。


(21)
 『ありがとう!芦原さん!』ボクは心の中で感謝した。
 ボクのやっていることは、歪んだイメトレじみているけど、それでも、ボクにとっては
必要なことなんだ。進藤を傷つけないためにも…!
 この調子でどんどん技術を向上させ、いつかは進藤と……そのためには、次の練習台を
見つけなければ…よぉし!明日も頑張って捜すぞ!
 そう決心すると、ボクは闘志を燃え上がらせるかのように、激しく進藤を突き上げた。
「あぁん!とぉやぁ!」
進藤がボクを締め付けた。あぁ!気持ちイイ…!ボクは、自分を解放した。

 今日のボクは、至極充実している。腕の中の進藤も、満ち足りた表情で眠っている。
ボクの満足が進藤の満足へと繋がる。やはり、ボクは精進に精進を重ねて行くしかない。
 ああ、もうこんな時間か。明日も早い。進藤を自分の胸の方に抱き寄せると、ボクも
眠りについた。

おわり



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