平安幻想異聞録-異聞- 152
(152)
次の朝、ヒカルが目覚めたとき、既にあの公卿達の姿はなかった。
人目をはばかって、朝日の昇らないうちに帰ったのだ。
首を曲げて自分の腕を見た。精液で汚れていたので、布団でぬぐった。
指貫袴を履いているせいで普段日光にあたらない下肢に比べて、時には
たすき掛けに肩まで日にさらす腕は、適度に日に焼けていた。
自分の右手は太刀を取るために、左手は弓幹を握るためにあるのに、今はどうだろう。
ここしばらく、太刀の柄も握らず、弓も引いていない。
御簾が揺れて朝の光りが漏れ入った。
見慣れた侍女が顔を出す。
そしてその後ろからついてきた、座間と菅原の姿に、ヒカルは激昂した。
「つつがなく、『おもてなし』も済んだようだのう」
「座間、てめぇ…!」
声がかすれた。だが、腰の鈍痛もかまわないほどの勢いで、ヒカルは座間に
殴りかかっていた。
それを菅原と侍女が羽交い締めにして静止する。
振りほどこうとしたが、存外に強い力で引き止められる。
「これ、座間様に無礼を働くでないぞ」
「どういうことだよ!」
「どういうことも何も、検非違使殿もゆうべは随分とお楽しみだったようでは
ないか。良い声が儂の閨まで聞こえてきたわい」
ヒカルは拳を握りしめた。
こんなのはあんまりだ。座間や菅原に玩ばれるだけなら、まだ耐えようも
あったのだ。それがどんな状況であろうと「座間のものになる」と約束したのは
自分なのだから。
いくら辛い目に遭おうが、それは自らが選択した道だった。
だが、これは。こんな遊女のように身柄を売り買いされ、顔も知らぬ男に
いいようにされ、嬲られるなんてあんまりだ。
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