日記 154 - 156


(154)
 グスグスとヒカルが鼻をすする。
「ごめん…ごめんなさい…わがまま言って…」
俯いたまま、暫く、静かに泣いていた。
「オレ…ホントは先生に頼っちゃいけないって…甘えちゃいけないって…わかってるんだ…」
「迷惑ばっかかけて…先生を振り回して…」
手が小刻みに震えている。
「…でも…」
ヒカルは、深く息を吸い込んだ。
「オレ…もう先生しか頼れない…みんなオレから離れていく…」
お願い…側にいて…独りはイヤなんだ―――――――
ヒカルの唇が弱々しく綴る。ヒカルは、流れる涙を拭おうともせず緒方を見つめる。
痛々しくもあえかな姿とは、相反する壮絶な色気があった。眩暈がしそうだった。


(155)
 ヒカルの隣に腰をかけ、肩を抱いた。頬に幾筋もついている涙の跡を指でたどる。ヒカルは、
甘えるように緒方の胸にもたれ掛かってきた。持っていたミルクのカップを取り上げ、そっと
キスをした。抵抗はない。
「怖くないのか?」
緒方の問いにヒカルは小さく頷いた。
「アキラ君は怖いのに?」
「……でも、先生は怖くない…何でか、わかんないけど…」
しゃくり上げながら、ヒカルは答えた。
「先生は違う…」
 緒方は苦笑した。それは、自分は“男”として、いや“雄”として対象外ということだろうか?
「これでも?」
ヒカルのシャツの下に、手をくぐらせ、胸をまさぐった。
「……!あ…やぁ…」
さすがに、驚いて身を捩って逃げようとする。緒方の太い腕が、ヒカルの腰にまわされた。
「やだ…!やめてぇ…!」
ヒカルの瞳から、せっかく止まったばかりの涙がまたあふれてきた。
 緒方は、ヒカルを自分の膝の上に乗せると、赤ん坊をあやすように宥めた。
「悪かった…」
「うぅ…」
ヒカルは、拳で緒方の胸を何度も叩いた。


(156)
 「わかっただろ?お前は無防備すぎるんだよ…」
ヒカルの手が止まった。何のことかわからない…そう言いたげな瞳で緒方を見つめる。長い
睫を涙が濡らしていた。
「お前をあんな目にあわせたヤツが誰かは知らないし、聞く気もないが…少し…本当に…
 ほんの少しだけだが、気持ちはわかる……」
ヒカルは、目を見開いた。緒方の言葉が信じられないとでもいうように…。
「オレはお前が好きだし、可愛いと思っている…甘えられれば嬉しいし、望んでいることが
 あるなら、叶えてやりたいと思っている…でも…」
一呼吸おいた。
「でも…時々…苦しい……」
とうとう言ってしまった。緒方の胸に添えられていたヒカルの手が力無く下ろされた。
「………オレ…何かした…?」
「何も…何もしてない……」
「……でも…オレが悪いんだね…?」
 ヒカルは悪くない。だが、それを説明するのは難しい。無邪気に甘えられて、嬉しいと
思う反面、苦しかった。自分の劣情を持て余して、ヒカルを引き裂いたのは、もしかしたら、
自分だったかもしれない。
「オレが悪かったの?だから―――も……」
誰かの名前を言ったようだが、よく聞こえなかった。
「いや、お前は悪くない…」
 ヒカルは、キッと緒方を睨み付けた。
「だったら、おかしいじゃん!悪くないんだったら…何で…何で…」
ヒカルの目からポタポタと大粒の涙が零れた。
「オレ…もぅ…わかんねえ…」



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!