初めての体験 156


(156)
 「…………ただいま……」
半泣き声で、帰宅を告げると同時に、雷が頭上に落ちてきた。両親は、玄関でヒカルの帰宅を
待ちかまえていたのだ。
 二時間にも及ぶお説教を、ヒカルは瞳に涙を浮かべて黙って聞いていた。
途中何度か、「遅くなった理由を言いなさい!」と詰め寄られたが、ヒカルは口を噤んだままだった。
「言わないのなら、昨日言ったとおり、門限は八時にしますからね!」
母が最後通牒を突きつけた。
「…………いいよ…」
ヒカルが小さく告げた一言に、両親は同時に「え?」と、間の抜けた声で聞き返した。
「八時でいい…」
 驚いている両親をその場に残して、ヒカルは階段を駆け上った。自室に飛び込むと、そのまま
ベッドに身体を投げ出して、ワァワァと大泣きし始めた。ドアの向こうで両親がオロオロと
心配そうに声をかけてきたが、ヒカルはそれに泣き声で返した。
 もう、絶対に一人で夜遅くに出歩いたりしない――――――ヒカルは気が済むまで泣き続けた。



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