トーヤアキラの一日 16


(16)
対局場に入るとアキラは座席を確認する。ヒカルはアキラのすぐ後ろで対局するらしい。
ヒカルの相手は御器曽七段で、ヒカルが負ける事は考えられなかった。自分も早く対局を
終わらせないと、ヒカルが先に帰ってしまう事になる。
とにかく対局に全力を傾けるために、目を瞑って精神を集中させる。

アキラが対局を終わらせて後ろを振り向くと、ヒカルも対局を終えた所だった。ヒカルと
対局者の様子から、ヒカルが勝ったことが察せられる。予想していた事とは言え、アキラは
心の底から安堵した。もし負けていたら話しかけることが出来ないような気がしたからだ。

部屋を出て行くヒカルを追ってアキラも部屋を後にする。
荷物を取りに行くヒカルに思い切って声をかけた。
「進藤!」
声が上ずっているのが分かる。そして、振り返ったヒカルの顔を見た瞬間、心臓が高鳴る。
「あ、塔矢。お前も終わったの?」
「うん」
「そっか、勝ったんだな」
「うん」
「なんか、お前と話すの久し振りだな」
「うん」
「どうしたんだ?『うん』しか言わないのか?」
そう言いながらヒカルが苦笑する。
「え・・・っと」
「本当にどうしたんだ?何か用か?」
「うん」
アキラは緊張して声が出てこない。このままではヒカルが怒って帰ってしまうと思うのに、
何を喋ったら良いのか混乱してわからなくなっている。



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