Shangri-La第2章 16
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乞われるまま緒方がベッドに潜り込みアキラを背中から抱くと、
アキラはほんの少し身体を捩って
安らかな幸せをその口元に浮かべて見せた。
幼かった時代にはこんな表情のアキラを見た記憶もあるが
関係を持つようになってからは特に
緒方の前でそんな表情を見せる事はなかったように思う。
―――思えば、幼いころから無意識に自分を抑える術を
身に付けていたアキラには、海外を飛び回り留守がちの両親にも、
のっぴきならない事情とやらでバイトに明け暮れる恋人にも
淋しいからそばに居て欲しいと訴えることは出来なかったのだろう。
そんなところが『大人しくて聞き分けの良い子』として
周囲の大人達に愛される所以でもあったろうが
若いころの緒方の目には、渡世術に長けた
子供らしくない子供と映っていたのも事実だった。
しかし今にしてやっと、その憐れさを緒方は感じていた。
と、アキラが微かに身体を揺らした。
「ん………」
どうやら、キスのおねだりらしい。
なんとなく沸いた薄っぺらい憐憫の情から、緒方は
孤独を抱いた憐れな子供へ、望むまま与えた。
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