指話 16
(16)
―まあいい、一人で飲んでいてもつまらなかったところだ。かと言って君に飲ますわけには
いかないが…。進藤の話だったな。
その人はキッチンに立ってポットに水を入れて火にかける。
戸棚からティーカップを一組だけ出した。自分用には新たにグラスを取り出している。
―すみません…、自分でやります…!
ハッとして慌てて鞄を置き、隣に立つ。タイトルホルダーにしてもらう事じゃない。
―君の家ではいつも煎れてもらっている。たまにはいいだろ。ティーパックで申しわけないが…。
ソファーに腰掛けるようにというふうに手を差し出され、頭を下げて座る。
視界に入るその部屋は、想像していた通りのものだった。
いつか自分が一人で自活を始める時の理想に近かった。シンプルで機能的な家具と
本に囲まれた空間。ただ、熱帯魚を飼うかどうかは考えていなかったが…。
その時、テーブルの上に散らばった本と新聞の間に例の週刊誌の表紙を見かけてドキッとした。
思わず見比べるようにその人の方を見てしまった。
―その様子だと、君も読んだんだな…。フフッ、まいったな。
テーブルにお茶とグラスを置くと、その人は雑誌を手にして目の前でページをめくる。
―詳しくは…読んでいません。
どうでもいい弁解を自分はしている。
―イベントから戻ったとたん棋院や後援会の長老達にいろいろ言われたよ…。今後はもう
こういう記事が出てこないか、念を押された。君は若手のお手本になるべき立場なの
だからってね。…大きなお世話だ。大体こっちはこの女の名前すら覚えていないんだ。
雑誌を放り出し、空のグラスを持ってサイドボードに向かった。
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