アキラとヒカル−湯煙旅情編− 16


(16)
「汚い・・・?なんだそれ・・・。」
アキラの言葉は思いもかけないものだった。
「あんなことされたから・・・。」
アキラは、言葉を切ると自嘲するように口の端を上げた。
――なんてこった・・・。加賀は絶句した。アキラの言葉に打ちのめされた。アキラはあの事があった後も、傷ついたような素振りは見せず、かえって明るく加賀に接してきたのだ。
傷つかないはずが無かった。あの瞳、居留守を使った加賀を見た、すがるようなアキラの瞳、が今さらながらくっきりと蘇ってきて加賀の胸を締めつけた。
――オレは自分の事しか考えてなかった。
乱暴されたアキラが、それ以来避けるようになった加賀の態度をどのような思いで受け止めていたか、乱暴されたことよりもその事がどれだけアキラを傷つけたか、慮りもしなかった己が情けなくてたまらなかった。
ひとりで、幼いながらに懸命に考え、汚い自分という結論を導き出して、小さな箱の中に閉じこもった幼いアキラの姿が見て取れた。
「ボクは、汚い・・・あんなこと・・・。」
自虐的に笑うアキラの腕を引き寄せ、加賀はその唇を塞いだ。
訳がわからず瞳を見開くアキラを抱きすくめると、再び唇を塞ぎ、硬く閉じようとする滑らかな皮膚に噛み付いて、乱暴に舌を割り入れた。
「んっ・・・んっ。」
アキラは逃れようともがくが、きつく拘束されて身動きできない。
加賀は、逃げ回るアキラの舌を執拗に追いかけ、ついに捕らえると、熱く絡めとり、愛しそうに吸い付いた。
絡められては吸い付く舌先の甘い感触にアキラは身をよじって抵抗する。
「どう・・・して。」
やっと開放された唇から荒く息を吐きながらアキラは問う。
加賀の呼吸も乱れていた。昔よりも野性味を増した加賀の切れ長の瞳の中に、不思議そうな顔をした自分が映っている。
アキラは再び強く抱きしめられ、布団の上に押し倒された。



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