誘惑 第三部 16
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唇だけじゃ、足りない。
抱き合っているだけじゃ、足りない。
もっと深く、もっと近くに、触れ合いたい。もう一度、塔矢の全部を知りたい。知り尽くしたい。
ヒカルの手がアキラの身体を探る。
「待って…、待って、進藤、」
「塔矢、」
「ここじゃ、駄目だ。」
「イヤだ。待てない。」
「駄目だ、進藤…!」
ヒカルの手を拒もうとするアキラを、抗議を込めて見つめた。
どうして。どうしてここでやめるなんて出来るんだ。今すぐにおまえが欲しいのに。
けれど、アキラはヒカルを見つめながら言う。
「こんなとこじゃイヤだ。こんなとこで、人目を盗んで、声を殺して抱き合うのなんてイヤだ。
誰か来ないかとか、見つかったらどうしようとか、そんな事考えながら抱き合うのなんてイヤだ。
もっと、もっともっと、キミと一つになって、余計な事なんか気にしないで、他の事なんか忘れるくらい
抱き合いたい。だから、」
アキラがヒカルの両肩を掴んで、真っ直ぐに見つめて請う。
「進藤、ボクの部屋へ。もう一度。」
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