金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 16
(16)
「やっぱりダメだ!送る!」
ヒカルの腕を掴んだまま、アキラは立ち上がった。有無を言わさぬその態度に、ヒカルは
完全に怒ってしまった。
「もういい!塔矢のケチ!オレ、一人で乗る!チカンに遭ったら、オマエのせいだからな!」
アキラを突き飛ばし、言い捨て駆け出した。
おまけに間の悪いことに、ちょうどその時、ホームに電車が入ってきた。アキラは舌打ちすると、
慌ててヒカルの後を追った。彼は酔っているとは思えないほど、軽やかな足取りで電車に向かって
駆けていく。ヒカルの華奢な太腿あたりで、スカートが翻っていた。
―――アレ?
なんだろう……この感じ…前にもあったような…………
軽い既視感を感じて、アキラは頭を振った。自分の視線の先でヒラヒラ舞うスカートに、
何故か覚えがあった。
アキラが奇妙な感覚に囚われているその隙に、ヒカルは電車に乗ってしまった。
「いけない!」
落ちかけたスピードを急いで上げた。
何とか滑り込むことができた。跳ねている息を整えるため、ドアに少しもたれるようにして
腰を落とした。俯いた視線の先に、細い足首には不似合いなガッチリとしたスニーカーが
見える。そのまま、視線を上へとずらす。ヒカルはちゃっかり自分の前に立っていて、ニッと白い歯を見せた。
ヒカルがアキラの隣へ移動して、同じようにドアにもたれ掛かった。
「怒ってるみたいだな…」
「別に…」
それはウソだ。確かに自分は怒っている。ヒカルは、アキラが絶対自分の後を追ってくると
確信していた。知っていて、ワザとあんな風に振る舞ったのだ。
――――くそっ…!この…小悪魔…
いくら酔っているとはいえ、こう振り回されては堪らない。そして、それに結局逆らうことの
出来ない自分…その事実に、彼に対する以上の怒りがあった。
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