ピングー 16
(16)
背中についた泡は、そのままお湯の勢いで下に滑り落ちて、排水溝の中へと消えていった。
「ほら、こっち向けよ。前も拭かなきゃいかんだろう?」
乱暴に振り向かされながら、ヒカルがつぶやいた。
「どうしよう。お母さんに泊まるって、いってない……」
「そんなもの、後で俺が電話してやる」
下手に話されて、保護者に昨晩の失態を感づかれては、おおいに迷惑だ。
まさか進藤ヒカルが、自分から親に『男にレイプされました』などと告白するとは考え
にくいが、親には、ほんのちょっとした口調の違いや、口ごもり方で、言葉にしない
ものまで伝わってしまうことがある。
緒方は、シャワーの湯をヒカルの顔に当てた。突然、顔の正面から水流を当てられて、
ヒカルが顔を背ける。
その顔を、左手で引き戻して、間近から目を覗き込んだ。
踏み込むなら今かもしれない。
「なあ、進藤。どうして、俺が夕べあんなことしたと思う?」
「あ、あんなことって……」
「こういうことさ」
緒方の手が、まだあらわになったままのヒカルの股間に延びて、そのペニスを掴んだ。
逃れようとするヒカルを、壁際まで追いつめる。
「おまえ、夕べのこと、夢だと思って忘れようとしてただろう?」
湯の下でピクリと揺れたヒカルの肩の感触に、思った通りだったことがわかる。
それじゃ困るのだ。それでは、このゲームは始まらない。
「夢だと思いこむにしては、これは無理があると思うんだがな」
ペニスを掴んだ手を放し、それを後腔に這わせる。指でその入り口をいじると、すぐに
そこから白い残滓がしたたりおちた。
(――ずいぶんと量が多いな。一回だけじゃなかったかな)
自分がなんとか記憶に留めているのは、最初の射精までだったが、酔っぱらった勢い、
実はその後も勢いあまって二回目、三回目と進藤ヒカルをいじめていたのかもしれない。
指先でたどるその場所は、腫れているのが感触だけでもわかった。少し強くこすると、
タイルに落ちる湯に、僅かだが血が混ざった。
ヒカルは、自分の両肩を抱えるようにして縮こまっている。
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