失着点・龍界編 16
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二人はハッとなって緒方を見、お互いを名残り惜しむように目を合わす。
「いえ、ボクも帰ります。仕事がありますから…。」
アキラが迷いを振り切るようにしっかりした口調で答える。
ヒカルにしてみてももうすぐ母親が様子を見に来る。
母親は失踪の件で多少ナーバスになっていて、アキラと会わせる事は出来な
かった。アキラが首謀者では決してない事はヒカルが何度も説明したが、
心のどこかで“元名人の息子の気紛れに付き合わされた”という感が拭えない
らしい。それはアキラの母親の方も同じだった。そういうものらしい。
父親同志の方がむしろ互いの愚息の事を謝罪し合っていた。
それでもやはり、アキラとの個人的な接触は固く禁じられた。
アキラの父親、塔矢元名人に対してヒカルは申し訳ない気持ちで一杯だった。
だがアキラの話では、元名人はアキラに対して何も言わなかったと言う。
一緒だったのがヒカルと言う事に納得しているようだったと。
むしろ、自分の名の元にアキラに過度に重圧がかかっていたのではないかと
いう事を謝ったのだという。そんな父に対し、アキラも今後はそれこそ
今まで以上に囲碁に取り組むと約束した。
緒方もそうした事情を分かっていた。それだけに今回はわずかでも二人を
会わせてあげられたらという配慮をしてくれたのだ。
病室に戻る為にヒカルがベンチから立ち上がろうとし、一瞬よろけた。咄嗟に
緒方がヒカルの腕を掴んだ。その時ヒカルの脳裏に夕べの感触が蘇った。
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