失着点・展界編 16
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「和…谷…」
ヒカルが思わず声を掛けようとした。和谷は俯いたままだった。
「放っておけよ!あんな奴!!」
伊角に怒鳴られ、靴を履かされ、抱えられるようにしてアパートを出る。
何時間あの部屋にいたのだろう。外はすっかり暗くなっていた。
「…タクシー、捕まえないとな…。それとも救急車の方が…」
ようやく止まった涙の跡を袖で拭いながら心配そうに伊角が聞いて来た。
ヒカルはフッと笑うと、いらないというふうに首を横に振り、グッと伊角の
体を押した。
「…進藤?」
もう一度ヒカルは伊角を押す。一人で歩ける、という意思表示をしたのだ。
伊角から離れ、ふらふらと2、3歩歩いて、道路脇の壁にもたれかかった。
「無理するなよ、進藤…!」
手を出そうとする伊角を、ヒカルは手の平を見せて頑に拒んだ。
「オレよりも、あいつの…和谷のそばに居てあげてよ、伊角さん…。」
伊角は驚いたようにヒカルを見つめた。
「今助けが必要なのは、オレよりも、きっとあいつの方だよ…。」
そのヒカルの言葉に、伊角は迷ったようだった。玄関を出る時はあんな
突き放した言い方をしたものの、その事は伊角自身も感じていたのだろう。
両手を握りしめ、ヒカルの顔と、今出て来た和谷のアパートを見比べている。
「今、伊角さんの助けが必要なのは、和谷の方だよ…。」
それでも伊角は少し躊躇しているようだった。だが、
「…進藤、悪い…。オレはやっぱり和谷がほおっておけない…」
そういって引き返そうとした。
「伊角さん、一つだけ、和谷に伝えておいてくれるかな…。」
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