夜風にのせて 〜惜別〜 16
(16)
十六
それから数日後、学校から帰宅した明は、自宅の前に見覚えのある黒い大きな車が止まっ
ているのを見つけた。
明の胸は高鳴り始める。ひかるが自分に会いに来たのだと思ったからだ。
明は足早に家の門をくぐった。そして震える手で玄関のドアを開ける。
「ただいま帰りました」
期待を胸に扉を開けた明だったが、そこにはひかるはおらず、あの男性がいた。
「おかえりなさい、明さん。高橋さんという方がお見えですけれど」
母親は不安そうに男性を見る。一切事情を語っていなかった明はあとで話すと母親に言う
と、男性を客間へ案内した。
「高橋、という名前だったんですね。ひかるさんはお元気なのですか」
明は落胆しつつも尋ねた。
すると高橋は黙って持っていた紙袋を手渡した。中には手紙の入った封筒とレコードが入
っていた。明はそれを取り出す。そして驚いた。そのレコードのジャケットにはひかるの
姿があったからだ。
「これは?」
「ひかるさんの…最初で最後のレコードです」
高橋はそう言うと明に背を向けた。明は訝しげに思い、もう一つの封筒に入った手紙を取
り出して読み始めた。
|