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バイブ音は夜の静かなトイレの中で鳴り続け、ヒカルの祈りも虚しく、背の低い方がそれに気付いてしまった。
「おいおい、塔矢三段の携帯が鳴ってるぜぇ?誰からだろうなぁ?」
そう言って名残惜しそうにヒカルの股間から顔を離すと携帯をポケットから取り出し、ディスプレイを覗きこむ。
「芦原…だって。あの塔矢門下の奴か…」
ヒカルは誰でもイイからとにかく助けてほしかった。芦原ならヒカルだってしらない仲じゃない。きっと助けにきてくれる!
「芦原サンっ!?かっ、貸してっ!」
「ばぁーか。見せてやんねーよ!」
男はそう言い放って携帯をトイレの壁に投げつけた。携帯は壊れることはなかったが、今やトイレの隅の、ヒカルが手の届かない場所にいってしまった。やっと意識のはっきりしたヒカルは精一杯男を睨みつける。今にも飛びかかりそうなヒカルに、押さえ付けている男の腕にも力がはいる。
「いいねぇ、その目。そそられるよ。」
背の低い男が、満足そうに目を細め、厚めの唇を舌なめずりする。その顔が、ヒカルに生理的に受け付けられない。こんな奴に弄ばれていると思うと気が遠くなる気がする。
「その携帯さぁ、夕方、棋院で拾ったんだよねぇー。僕はヒカルクンの方が好みなんだけどさぁ、そいつが塔矢クン大好きだから、こうやってヒカルクンとも遊べるようにしたんだよぉ。良い計画だろ?ハハ」
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