初めての体験+Aside 16 - 17
(16)
最悪な気分で戻ってくると、ヒカルとアキラは十秒碁を再開していた。
「あ、社。先にやってるよ。」
ヒカルが笑顔で迎える。
「進藤、よそ見しない!」
アキラがヒカルを叱った。そして、社を見て、フッと笑った。
社は赤くなった。自分が今何をしてきたのか、見透かされている。
『そうや!進藤で抜いてきたんや!悪かったな!』
二人の打つ碁を見ながら、社はこの超早碁勝ち抜き戦に賛成した自分を後悔していた。
アキラに提案されたときは、単純に面白そうだと思って参加したのだが…一晩中打ち続ける
というのはどうも無謀だったような気がする。
社は学校が終わるとすぐに、東京へ出てきたのだ。精神的にも体力的にも疲れていた。
だが、ここで戦線を離脱するのは嫌だった。
自分が今倒れたら、アキラはヒカルをガンガンにヤリまくるに違いない。しかも、社の
すぐ側で…。
アカン!それだけは絶対イヤや!
かといって、ヒカルが離脱すれば、自分はアキラに喰われてしまう。それもゴメンだ。
一番いいのは、アキラが抜けることだが、そんなことはあり得ない。ヒカルと自分を
二人切りにするわけがない。
絶対塔矢はオレを道連れにする…どんな手を使っても…
この対局は、パリ・ダカールラリーよりも過酷かもしれへん…。
社は戦慄した。二十四時間耐久レースは始まったばかりだった。
(17)
社は、迫り来る睡魔を気力でかわしつつ、何とか最初の波を乗り切った。次の波が来るのは、
また何時間か後であろう。アキラは、何か薬物でも使っているのか、まったく平静で
疲れたそぶりも見せない。
――――くっ…!負けたら…塔矢より先に寝たらアカン…!
社は、アキラをキッと睨み付けた。アキラも社を厳しい目で見つめている。
社とアキラが水面下で、そのような激しい戦いを繰り広げているとは夢にも思っていないのか
ヒカルは二人の盤上での攻防に目を奪われていた。
「スゲーよ!二人とも!」
と、単純に二人の熱い戦いを賞賛した。
『ちゃうねん…進藤…コレは碁の勝負と違うねん…』
ヒカルは自分が賞品だとは思っていない。アキラと社も公言したわけではない。だが、
二人の間でいつの間にか暗黙の取り決めがなされていた…ような気がする。あくまで気がするだけだが…。
アキラが負けた場合はともかく、自分が負けたときは悲惨だと思った。
―――――要するに寝なかったらエエんやから…
気合いと根性で乗り切ってやる。
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