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(16)
進藤が、僕の顎に息を吹きかけるようにして静かに告げた。
「全部、入った。おまえ……熱すぎ」
僕は軽く首を振っていた。
熱いのは、僕じゃない。君だよ。君が熱いんだ。
君の熱が僕の燠を燃え上がらせた。
しばらくの間、身じろぎもしなかった進藤だったが、ゆっくりと上半身を起こした。すると、僕のなかで灼熱がその角度を変える。
下腹部が内側から持ちあがったような気がした。
進藤は呼吸を整えると、僕の手を取り下腹部へと導く。
「わかる?」
進藤に手を取られ、僕は自分野原をまさぐっていた。
わかる。薄い腹の奥に、進藤がいる。
僕は、信じられないと心の中で喚きながら、でも、進藤に向かって二度三度と頷いていた。進藤はそんな僕を見て、笑った。嬉しそうに笑った。
そして、ゆっくりと動き始めた。
三本の指より。さらに体積のあるもので貫かれているのに、不思議と痛みはなかった。かといって、快感があるわけではない。
進藤が動くたび、内臓が掻き回されるようだった。それはあまりに生々しくて、身を委ねるのが躊躇われる。
ただ、進藤が見せる様々な表情が、僕を恍惚とさせた。
僕たちは碁盤を挟み、幾度となく真剣勝負を繰り返してきたが、こんなにも感情を顕にしたことがあっただろうか。
僕は、込み上げてくる涙を、堪えることが出来なかった。
いままでになく、誰よりも深く、進藤と交われたことが、今日の僕の最たる快感だった。
「……あ、………あぁ、んあ……………っ…」
閉じることを忘れた口から、ひっきりなしに声が漏れる。
進藤の動きに合わせ、零れる声が、徐々に甘いものを孕んでいく。
進藤は徐々に動きを早めながら、僕の性器を扱きあげた。
既に張りつめていた僕のモノは、あっと言う間に限界まで上り詰める。
「し、しんどっ……進藤………!」
僕は声を張り上げ、彼の名前を繰り返した。そのたびに、進藤は深く頷いてくれた。
それが嬉しくて、僕はまた進藤の名前を呼ぶ。
「…………ん……」
短く呻き声をあげ、進藤の性器が僕の中で大きく膨れ上がった。
それが僕の限界だった。


(17)
僕は、進藤の手の中に、二度目の白濁を噴き上げていた。その瞬間、僕の内壁は激しく収斂し、進藤の形をしっかりと味わっていた。
そして、その締め付けに進藤も、僕の奥に迸りを放っていた。
力をなくした進藤が、僕の上に覆い被さってきた。
荒く息を吐きながら、僕の頬に唇を寄せてくる。
汗で額に張り付いた髪を、優しい手で、直してくれる。
僕たちの視線が、ゆっくりと結ばれた。
もう離せなかった。
身つめあったまま、僕たちは可愛らしいキスを繰り返す。
一晩で、僕はいったい何種類のキスを知ったのだろう。
進藤は、静かに僕から離れていった。
ずるりと、引きぬかれる感覚に、僕の下肢が、ぴくぴくと痙攣する。
その時、進藤が囁いた。

―――――塔矢も、俺のこと好きになれよ。

僕は冷たく返してやった。
「僕を馬鹿にするな」
「塔矢?」
進藤が慌てた声で、僕を呼ぶ。だが、僕は彼を置き去りに眠りを手繰り寄せる。
朝がくるまで、少し慌てていればいいんだ。
僕が………好きでもない人間に、体を投げ出すような人間だと思っているなら、それは酷い誤解じゃないか。
まったく……、君は囲碁以外のことに鈍感過ぎる。


(18)
進藤の灼熱が、僕の燠まで、燃やしてしまった。
だけど、その代わりに、新たに埋め込まれた熱がある。

僕は、訪れた睡魔に身を委ね、目を閉じた。
瞼の裏に、蛍の光がぽうっと浮かび上がる。
あの、緑がかった、燃え尽きることを知らない火が、僕の中にある。
それは、進藤がくれた火。
風に揺らぐことのない……、消えない火。
進藤が、僕の体に腕を回し、引き寄せる。
いまだけは、彼の腕の中で微睡もう。
彼の暖かい腕の中、彼が寄越した、尽きることのない火を、そっと抱いていよう。



                      ===了===



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