カルピス・パーティー 16 - 18


(16)
「これは、大阪に行ってきた時のだよ」
「大阪・・・てことは、・・・社の」
「うん」
アッサリ答えるとアキラはまた頭をフローリングの上に戻し、すぐに続きが再開される
のを期待するように体の力を抜き目を閉じた。
だがヒカルはそろそろと、アキラの胸の皮膚に触れていた人差し指を引っ込めた。
「・・・・・・。進藤?」
漸く異変に気づいたのかアキラが目を開けこちらを見る。
「進藤、・・・もしかしてこれ、嫌だった?」
「・・・・・・」
ヒカルは答えなかった。アキラの肌に散らばった内出血の跡から目が離せない。
顔面に痛みを感じるほど、表情が強張っていくのが自分でわかる。
恐る恐るヒカルは聞いた。
「これ・・・これさぁ、他のとこもこうなってるの」
「うん」
「見せて」

一糸纏わぬ姿になったアキラの身体の隅々に、その印は残されていた。
いつもヒカルが抱いている真っ直ぐな白い脚も、たくさんの跡でその白さを汚されていた。
脚を開かせてみないと分からない、内腿のかなり際どい部分にまで複数の跡が鮮やかに
散っているのを見てヒカルは頭が大きな槌か何かで殴られているようにガンガンしてきた。
「オマエ、こっち帰ってきたのいつだっけ」
「三日前だよ」
「こういう跡ってそんなに何日も、こんなはっきり残るもんなの。オレ何回かオマエに
つけた事あるけど、すぐ消えちゃったじゃん」
「そ・・・れは、場合によるよ」
アキラの声が、何故か動揺するように少し上擦った。
ヒカルの視線を避けるようにアキラが顔を逸らしたのを、しかしヒカルは見ていなかった。


(17)
(じゃ、社にはすげェ強く吸われたってことか・・・?)
それ以上にヒカルにショックを与えたのはその跡がアキラの身体全体に散っていることと、
その数の多さだった。
ヒカルもたまにはアキラにそうした跡を付けることはあったが、それはだいたいアキラを
背後から突く時にちょうどキスしやすい位置にある首筋か肩口の定位置と決まっていた。
今ヒカルが見ている社の跡は、愛撫の延長というより己の痕跡を残すことそのものが
目的のような念入りさで、点々とアキラの肌を侵している。
その一つ一つの跡が刻み込まれた時の状況を想像して、ヒカルはカァッと頭に血が昇る
のを感じた。

フローリングの上に横たわるアキラが白い指の甲でヒカルの膝に触れながら、気を遣う
ように言った。
「進藤。・・・進藤。キミの気分を害したなら、すまなかった」
「・・・・・・」
「・・・でもキミにも言ってあったよね?ボクはキミ以外にも・・・」
「ヤる相手がたくさんいるってな。知ってたよ。でも・・・でもさぁ、なんでオマエこんな
他のヤツの跡いっぱい付けたまま、平気でオレのとこ来れるんだよ。オマエ、オレが具合
悪いんじゃないかとか手合い休んだのはどうしてだとか、そーいう事はうるせェくらい
心配するくせに、なんでこういう時はちっともオレの気持ちとか、考えてくれねェん
だよ・・・オレは、オレはさ、」
――オマエのこと、好きなんだぞ。
そんな言葉が心に浮かんで驚いた。


(18)
(違う)
アキラが、自分を、好きなのだ。
アキラが自分を必要としているから、自分はアキラの側にいるのだ。
そうしてアキラが自分を追うあの熱い眼差しを感じ、アキラを抱いてその温かな肌を
感じる時だけ、ヒカルはどうしようもない寂しさから解放され、過去の悲しみを全部
肯定することができる。
抜け殻になるくらい泣いたことも、優しい友人を自分が傷つけてしまっただろうことも、
全て物事が前に進んでいくために必要なことだったのだと、
不思議な出会いの瞬間から全ての出来事は、自分が今アキラと共にあるために用意された
ことだったのだと、そう思える。

それなのに――
もう一度アキラの身体中に残る社の跡を眺め、体の奥底から理不尽な怒りが込み上げて
くるのを感じたヒカルは、まだ物欲しげにピンと尖り立っているアキラの胸の突起を
ぎゅっと抓り上げた。ここにだって、オレがさっきあんなに優しくしてやったのに――
あ、とアキラが身を竦ませる。
「し・・・しんど・・・う、やめ・・・っ!痛いよ・・・っ!」
白い手がぶるぶると震えて、懇願するようにヒカルの手に添えられる。
「オレはもう触ってないのに、男のくせに、ずっと乳首立てたまんまでさ。そんなに
エロい事が頭から離れないのかよ。こっちだってさっきからずっと、トロトロだよな」
と、アキラの股間のモノに舐めるような視線を移してやると、それだけでそこがビクンと
反応する。それが気に入らなくて、またぎりっと突起を抓り上げる。
「痛っ、痛い、痛い、進藤」
「ふーん、痛いのか。でも他のヤツの跡がいっぱい付いたオマエに優しく触ってやる
義理なんてオレにはないぜ?こんなの見せられた後でも、オレがオマエに優しくして
やるとでも思ってた?・・・冗談じゃねェ。楽になりたいなら、自分でしろよ」
手を離しヒカルが突き放すような低い声で言うと、アキラがはっと目を開いた。



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